『ソラ情報』

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NO 8001   

宇宙の友人達 マイカの物語  


タカシ記

本山よろず屋本舗情報です。

http://motoyama.world.coocan.jp/


宇宙の友人達

これから紹介する物語はカナダのUFOコンタクティーであるオスカー・マゴッチ氏の著作から抜粋したものです。ですからその真偽に関して多くの議論があることでしょう。ですが、そういった真贋論争は別にして、単純に物語を楽しむという発想もあります。
 この話は、オスカー・マゴッチ氏がマイカという人物の生涯をホログラフィー映像で見せられて、それを彼らの要請にしたがい文章化し、本として出版したものとなっています。
 偽物、本物に議論はさておいてスターウォーズ顔負けの冒険活劇を楽しんで下さい。


 これらは、「深宇宙探訪記(下)」星雲社 の抜粋です。ただ購入したくても、もう書店にないかもしれません。

[トップページ]


第一節...セドナで著者のために行われたブリーフィング

マゴッチ氏へのブリーフィング

第二節...マイカ(別名、ドン・ミゲル)

マイカ登場!

第三節...スターゲート事件

惑星アルコナスでの戦い

第四節... 『宇宙の災禍』の危機

サマエルとの戦い

第五節...マイカのパワーの出現

マイカの特異な才能

第六節...銀河系XXでの使命

新たな使命


 第一話...マイカ

  第一節...セドナで著者のために行われたブリーフィング

 一九八七年の二月初旬、カリフォルニア州サンディエゴの航空史博物館を訪れた。展示品の最後近くで、人間の創造力の所産に驚嘆し、技術革新のスピードに感嘆していると、傍らにいた誰かが話しかけてきた。
 「うーん、本当に凄いですね」
 聞き覚えのある男の声だ。
 振り向くと、嬉しいことに、アーガスだった。UFO飛行士で、私の宇宙の友人だ。
 「でも、これはほんの始まりに過ぎませんよ」
 アーガスは笑みを浮かべながら言う。
 「時間を十分に与えれば、人間の創造力は無限です。このことは、問もなく貴方がご自分の目で確かめられます。数日したら、貴方は大変ユニークなドキュメンタリーをご覧になることになります。地球外宇宙旅行と『連盟』に属する貴方の宇宙の友人達の素晴らしい偉業を記録したドキュメンタリーで、これから貴方がお書きになる『私の宇宙の友人達について』というほんの執筆に非常に役立つものです」
 何処で何時見せてくれるのかを訊いても、アーガスは教えてくれない。
 「心配なさらないで、この辺りで、気の向くままあちこち訪れたり旅行したりしてれば大丈夫です。最終的には、その場所にその時間に行くことになりますから。今日の行動とまったく同じですよ。新しい出会いがあるという予感がして、わざわざトロントからここまでいらしたんでしょう」
 アーガスは昼食をしましようと言って、近くの「カフェ・エル・モロ・デル・レイ」に連れていってくれた。スペイン植民地時代様式の上品なレストランだ。そこで美味しい食事をしながらおしゃべりを楽しんだ。サイキアンである宇宙の友人に再会できたのはうれしかった。それに、安心もした。もしかしたら新しい出会いがあるかもしれないという予感は正しかったのだ……

 * * *

 三日後、私はレンタカーを駆ってアリゾナ州セドナの町に乗り込んだ。その町には、前から、強い力で引きつけられていた。昼間はドライブをしたり、絵のような岩石層やいろいろな色彩に輝く見上げるような山々を歩き回った。セドナは魔術的な美しさを備え、エネルギーの渦が持つ神秘的なパワーのある町だ。ここには特殊なエネルギーが存在している。赤い土壌の下には、クリスタルからなるレムーリアの都市、星とつながる古代の出入り口、があると信じられている。
 昼間あちこちと探索して、素晴らしい経験をし、エネルギーに満ちあふれるのを感じたが、コンタクトは実現しなかった。夜になった。涼しく、空気も澄んでいる。満月を一日過ぎた月が輝いている。十時頃、強い衝動を感じて車で出かけた。行き先は、巨大な『空飛ぶ円盤』型をした丘状の岩石層で、ベルロックと呼ばれている場所だ。ゆっくりと西側を歩いて登る。頭が『王冠型』のエネルギーで充満しているのがもう感じられる。ベルの形状に沿って走り、宇宙へと飛び出していくエネルギーだ。
 自分が何が起こるのを期待しているのかははっきりしない。だが、それでも、月光に照らされたこの魔力の地にいるだけで非常に満足だった。中腹の台地で足を止めると、岩盤の上に小さな石が円形に並べてあるのに気がついた。インディアンのメディスン・ホイールに違いない。ベルロック伝説の『鷲の故郷』とか『コミュニケーションの場所』といった言葉を思い浮かべながら、メディスン・ホイールに近づいていった。
 すると、途方もないことがあっという間に起きた。足の下が抜け落ちたのだ。何かシャフトみたいなものの中を落ちていく感じというか、岩石の丘の中に引っ張り込まれていく感じだ。暫くすると、体が運ばれて行くのが止まった。周りは薄暗い。エレベーター位の大きさの、ピラミッドのような形をしたクリスタルの層に閉じ込められてしまったのだ。周囲の表面をほんの暫くキラキラと光らせながら、ぼんやりとした影のようなものが近づいてくる。生きている男だ。虹色の輝きに包まれている。宇宙人の友人、ケンティンだった。
 「あんな風にここに引っ張り込まれてしまって、済まなかった。古代のトランスポーター・ビームというのは、いったん貴方のオーラ・パターンに固定されたら、後は自動的なんですよ」
 ケンティンが私を暖かく抱き締めてくれる。
 「この訪問のガイド役は私が務めます。良くいらっしゃった。時間通りに来てくれてありがとう」
 「時間通りといっても、別に私がそうした訳ではないですよ。私は全然知らなかったんですから……」
 「それでも、今晩の貴方は、ここに案内されるということに素晴らしい反応を示しましたよ。ベルロックのエネルギーに貴方が合っていたので、ここを貴方の入り口にしなければならなかったんですが、お約束したドキュメンタリーをご覧いただくのは、ここから数キロ離れた所にある、設備の整ったキャシードラル・ロックでということになります」
 こう言って、ケンティンは胸の大メダルに触れた。すると、私達は二人とも目が眩むようなボワーツとした状態で岩石などの中をさっと通過していく。止まったところは、教会の大きさの微かに光り輝くクリスタルの洞窟の中だ。クリスタルに囲まれた巨大な場所は空っぽで、ただ中央にはリクライニング式の椅子が数脚あるだけだ。そこに二人とも座る。この世のものとは思われないような音楽が、何処からともなく闘こえてくる。
 ケンティンが話し出す。
 「まず、『連盟』とその始まりについて全般的な説明を簡単にしよう。太古の昔、『光の勢力』と『暗黒の勢カ』との間に宇宙大戦争が起こった。その結果、巨大なエネルギーが放たれ、私達の多宇宙の何百万という多数の世界が破壊されてしまった。全領域の構造自体も粉砕され、多数の次元へと細分化されてしまい、新たに形成された亀裂線が垣久的な障壁となってしまったのだ。即時とも言える宇宙旅行とコミュニケーションが、以前は自然に行えたのだが、それももはや不可能となってしまった」
 「この戦争からの復興は遅々として進まず、部分的にしか行えなかった。だが、例に違わず生命は勝った。生き残った幾つかの世界は、人類も異星人も同様に、新規蒔き直しを図った。救出された生き残りから、まあまあの所まで復興した世界もあれば、完全にゼロの状態から原始的状態での再出発という所まで行った世界もある。そうして、何千年もの時問が経過し、戦争の影響を受けた諸世界の大半は、程度こそ違え、文明が繁栄するようになった。その大方は、たとえ小規模ではあるにしても、また宇宙を航行するようになった。貿易や交流が惑星間や星系間で始まった。地域間のリンクが出来ている所もすでにあり、地域間同盟関係も出来上がっている。そうした地域のひとつが諸世界サイキアン連盟だった。この連盟は率先して大複合体の発展にも着手し、独立した一部門を構成するようになった。これが、後に連盟第十一部門に指定されることになる。それは、まさにこの地域に、三十三の広大な部門を持つ(正式名称を自由諸世界次元間連盟という)大連盟が最終的に形成されたからだ。これは、(光の勢力を支持する)ガーディアン評議会に派遣された宇宙促進者達の提案と指導によってなされたことなのだ」
 「ありとあらゆる系に存在し、人類の長老である彼らガーディアン達は、二度とあのような宇宙規模の破壊行為が生じるのを防ぐことと、暗黒の勢力から守ることに献身するようになった。グランド・マスター達の下に位置する評議会を構成する彼らガーディアン達は、多宇宙の構造の『外側』に、つまり時空を超越した完全に非物質的な次元の最上階域に存在し機能している。彼らは霊的存在であり、時としてその在住場所に光の存在として出現することがある。私達の故郷がどのような宇宙界にあろうとも、彼らはこの世のものでない在住場所から、私達人間世界が適切に機能し進化するよう導いてくれている。彼らのその行動は、他の異生物形態からなる数多くの別個の指導的『心霊ヒエラルキー』と完全に合致しており、その目的は、調和的共存と宇宙の永続的平和にある」
 「このように、数十万年前の昔に、私達の多宇宙の遠い所で、さまざまな人間世界系の諸問題を管理するために大連盟が誕生した。第十一部門もそうして誕生し、その中核であるサイキアン諸世界が大連盟の中心部門となった。その統治惑星をザンシウスという。連盟の三十三部門を構成しているのは、総計五千の主な世界センター惑星だが、それに加えて、手付かずで未開発の惑星がその数の百倍はある。(一部門として参加しているのが銀河系連合で、その代表はアシュター司令部だが、もしかしたら連盟加盟につながるかも知れないので、惑星地球の進化に関心を払っている。)」
 「他の数多くの連盟部門と同じように、銀河系連合にもある程度の標準化はありうる。だが、連盟部門であっても端から端まで完全に標準化しているわけではない。いろいろと多様なシステムや文化、技術や行動手順が内包されているからだ。諸世界の大方は他の世界のやり方を取り入れる気すらない。なぜそんな必要があるのか。彼ら世界の宇宙旅行や技術は完壁に機能している。とりわけ、『進度』や効率の度合いの重要性は、知覚力のある生活の質や目的よりもずっと低く、最高の共通目標を、それぞれの故郷世界を一層高い振動界へと霊化していくこと、に置いている。各部門はあらゆる点で完全な自治管理体制をとっているが、連盟の首都惑星ザンシウスに代表を送っている。それ以外に部門間のリンクや交流はない。それが、外的影響を受けずに独自に成長し進展することを促している。新しい『外部の』方法をとり入れることは滅多にないが、例外的にとり入れる場合、その決定は部門の代表が行う。たいていの場合、これは極めて人道的な配慮を要する間題についてだ。連盟の住民は人間が圧倒的であるが、加盟世界や提携世界の多くに多数の異種がいる。加盟するかどうかはすべて自主的な判断に任され、住民投票による」
 「連盟諸世界は精神面で統一されており、遥か遠く離れたガーディアン評議会という上部機関に導かれている。これら諸世界は連盟宇宙艦隊によって結び付けられかつ守られている。この艦隊は連盟当局と協力している字宙艦隊司令部の指揮下にあるが、ガーディアン評議会に対してのみ責任を持つ。ガーディアン達は、彼らに代わって監視・助言を行う『宇宙促進者達』を通して、こうした諸世界と連盟宇宙艦隊と連絡を保っている。各惑星には第四等級の促進者達がオブザーバーとして派遣されている。また、全体の機能を円滑にするため、第五等級の促進者が数名おり、ケンティンもその等級に属している。彼らは担当の系の監視を行い、ガーディアン評議会の第六等級と第七等級からなる威厳ある機関に逐次報告を行っている」
 「促進者として任命される前に、候補者は既に寿命を延ばしているうえに、さまざまな経験を積んだり偉業を達成している場合が多い。促進者の人生というのは、やり甲斐のある充実感に満ちたものだ。正式な任命という栄誉はガーディアン評議会が執り行う。その後、十分な力量・技能と資格を各人が身につけ、時機が来たら、第四等級から第五等級に昇格し、更に、何千年か経ったら、第六等級にも昇格出来る。そうしたら、評議会の行政府に入れるのだ。(この行政府は霊的な状態が支配的で、大危機の場合に『具現化して』物質界に危険を冒して出ていくことが時々ある。)」
 「さて、今度は各種の速度と次元について説明しよう」
 とケンティンが別のテーマに移る。
 「近くに接近した場合の標準亜光『インパルス』速度の他に、連盟のあらゆる宇宙船が超空間(ハイパースペース)旅行する際に、随意に使える超光速度が複数ある。旅客定期宇宙船、貨物輸送宇宙船、その他宇宙商船や宇宙民間船用の超光巡航速度は二百C(つまり、光速の二百倍)で、他方、宇宙艦隊の艦船や最優先の政府宇宙船の超光巡航速度は五百Cだ。かつては、一Cつまり光の速度が最高速度と思われていたことを考えると、こうした数百Cの速度は信じられないほど速い。だが、星間距離や銀河系間距離を飛行するにはどうしようもないほど『遅い』」
 「例を挙げると、一千億の星がある貴方の故郷のレンズ型の銀河系は『厚さ』が二万光年、直径が十万光年だが、隣のアンドロメダ星雲までは二百万光年の距離がある。更に、貴方の故郷の宇宙だけをみても、そこには何千億もの銀河系が遠くに存在している。それだけではなく、この計り知れない壮大なコスモスの中にある私達の多宇宙とて、存在は知られているが大半は未踏査で、その中だけでも多数の宇宙や次元があり、いろいろなレベルや界もある」
 「ゆるやかな結びつきを持つ連盟の共同体は、各種の銀河系や次元に存在する何千もの星系からなり、この無限のコスモスにある私達の故郷の多宇宙に属する広大な三十三もの部門に及んでいる。したがって、こうした恐るべき距離を超光巡航速度よりもっと速い速度で航行するため、星間ジャンプという瞬時に近い速さで移行する方法もすべての字宙船が使えるようになっている。これは、各部門内におよそ百光年離れて存在しているいわゆるスター・ゲートを使う方法だ。これを使うと、『戸口から戸口まで』の移動時間が最高数週間にまで短縮出来る(その間、望めば誘発睡眠でゆったりと過ごすことも出来る)。スター・ゲートは人為的に開発されたものだ。スター・ゲートになる可能性のある場所は時空連続体の特異なワープ(歪み)がある所だ。そうした場所を、人工のパワー・フィードバック・ブースターで増強してある。スター・ゲートの管理と保守はロボットとコンピュータ化された装置が行い、どのゲートからでも同一部門内の同様なゲートを目的地としてプログラムで選べるようになっている。他次元の連盟部門に行くため、宇宙艦隊の宇宙船には、大半の星系に自然に多数存在しているいわゆる『次元間移行窓』を通過出来る機能が備わっている」
 「更に、ギャラクシー.ゲートも(連盟の各部門内に二つないし三つ)あるのは言うまでもない。こうした奇妙なまでに複雑な異常域は、宇宙船を銀河系から別の銀河系へと瞬時に移送出来る。異常域は強力な重力乱流からなる迷路の中に隠されているから、普通の宇宙船なら必ずばらばらに破壊されてしまう。したがって、こうしたカタパルトの位置を的確に探し出し正確に通過して、畏怖の念を起こさせるような銀河系間の距離をスーパージャンプ出来るのは、特殊監視装置付きの特別堅固な宇宙艦隊の宇宙船だけだ」
 「今までに開発されたコミュニケーション方法で、もっとも効率が良いのは、一万Cの速度で行われる『超空』送信だ。必要な場合は、スター・ゲート網の自動中継システムを使ったり、リレー=プローブで発信しギャラクシー・ゲートを通過させる。せいぜい半日もあれば、非常に遠い場所から何処かの司令センターまでメッセージが届く」
 「自分の故郷の次元の他にもたくさんの次元がある。こうした次元は隣接して存在しているか、あるいは部分的に重なり合っていることすらある。どの次元も物理的には似通っているが、お互いに探知出来ない。それは、周波数『域』が異なっているからだ。低周波数『バンド(帯)』や高周波数『バンド』にも次元は存在している。どの知覚型生物形態にとっても、周波数の『高バンド化』や『低バンド化』は非常に難しく、専用宇宙船かブースター支援、あるいはその双方を必要とすることが多い。こうした『バンド』は実際には、異なる世界秩序であり、宇宙の進化スケール上にある各種の存在レベルで構成されているからだ。つまり、密度が異なる別々の振動界(VR)ということだ。地球と、多数の銀河系を持つその可視宇宙は、中域VR3(第三密度)だし、サイキアンと連盟世界の多くは高域VR3ないし低域VR4だ。このような振動界は玉葱の皮のように球体の中に球体があるようなものだが、周波数帯の高低差が非常に大きいので、それぞれが十分に隔絶されている。振動界の実体も居住者も、別の振動界のものとは(固体対エーテル、火と水のように)相容れない。お互いの技術を利用することも出来ないし、物や道具を別の振動界に持ち込むことも出来ない。精々出来ることといえば、相互影響力を僅かに働かせることぐらいだが、それとて間接的にしか出来ない。したがって、別の振動界に旅する者は全く自分の力しか頼るものはなく、現地と融合し、現地の方法しか使えない」
 沈黙が流れた。私は椅子に座ったまま、聞かされたことをひとつ残らず理解し、記憶しようとしていた。
 「さて、お目当てのドキュメンタリーですが」
 と、長い間を置いてから、ケンティンがまた話し始めた。
 「『ホロラマ』とか『ホロドラマ』と呼ぶのがふさわしいでしょう。全感覚環境のホログラフィー型映像で、現実と見間違えるほどの完壁な幻影を作り出します。それだけでなく、貴方と私にとってこれは、実際に自分が参加し、出来事を完全に体験しているように感じます。ぼんやりしたところ、大雑把な部分は、体験者の記憶を増強記録したもので、ところどころテレパシーや実際の声を使ったボイス・オーバーで増幅してあります。鮮明な部分は体験者自身から実際に生録したところです。全体の長さは四時間で、内容は貴方が既に会ったことのある人達の個人史をハイライトを選んで編集したものと、幾つかの時代を大幅に要約したものです。地球人については、正体が分からないようにわざと匿名にしてある人も何人かいますが、彼らが感じたことや経験したことで不可欠なものはそのままにしてあります。この『ホロドラマ』方式を使うことにしたのは、普通の方法では話すのに時閻がかかりすぎたり難しすぎたりする内容を、貴方に見てもらい体験してもらう助けになると思ったからです。ご覧になってから、貴方がこれから書く本『宇宙の友人達について』で、適切な一言葉を使ってどう表現するかを考えるのが貴方の仕事になります」
 「それでは、明かりをおとして、ショーを始めましょう」
 こう言って、ケンティンは話を終えた。
 ケンティンの虹色の輝きが薄くなり、洞窟が真っ暗闇になる。間もなく、星が幾つか見え始め、その数が増えていく。深宇宙を旅している感じがし始める。本当に飛行し、移動し、戦闘を行い、ワープする感じだ。大分経つと、今度は、自分が実際に血を流し、死にそうに感じ、それが一転して、元気になり、勝利に歓喜する。自分の全身全霊による正真正銘の体験だ。
 さて、それでは私の体験をこの本で、言葉を使って伝えてみることにしよう。

 * * * * *


  第二節...マイカ(別名、ドン・ミゲル)

          登場人物

マイカ 主人公。別名ドン・ミゲル
ケンティン 第五等級宇宙促進者。マイカの友人
アルドヴァール 主に軍事関係の仕事に従事。マイカの友人

 青春時代の彼は、夜になるとよく人里離れた山合いに出かけ、そこにある超宇宙船の残骸の側に座り、いたく驚嘆の念に打たれながら星空を見上げていることが多かった。この墜落現場に以前から惹かれていた。ばらばらになった残骸をいくら調べても成果が挙がらなかったが、それでも、憧れの気持ちを抱きながら神秘に満ちた宇宙をじっと見つめている時の気持ちと同様に、自分の不可思議で暖昧なルーツを知る手掛かりが何か掴めるのではないかと、この現場にやって来た。だが、手掛かりは得られない。残念なことに、この辺りで『最も学識のある生き物』に訊いても大した情報は手に入らなかった。この生き物とは、ロボット化されたシャトル用空港にいる世捨て人の長で、その人の辛抱強い親切な後見のもとに、彼は器用な何でも屋になったのだった。
 地球年で三万一千年程の昔のことだ。当時推定年齢一歳であった彼はたまたま、何処からやって来たとも分からぬ、あの墜落した超宇宙船の唯一人の生存者になってしまった。間もなく彼は、何処かの非常に小さな系にある荒涼たる小惑星『ピッツ』に住む子供のいない夫婦の養子にもらわれた。この養子縁組を進めたのはこの地域唯一の医者『クレージー・ホース』で、この子供のことを少し奇妙だが健康な人間だと太鼓判を押した。また、子供はこの医師に師事して、後年、パラメディックとして診療補助をするようになる。この厳しい辺境の地の人達は自分の生活のこと以外には関心を示さなかったため、宇宙船墜落事故は広く公表されなかった。炎上して黒くなった残骸や数人の搭乗員の焼けた死体をちょっとつっ突いてみたりはしたが、それ以外、検死もなければ法律に基づいてどうのこうのという騒ぎもなかった。子供はマイカと名付けられ、養父母の愛を受け大事に育てられた。養父母は骨身を惜しまず働き一生懸命に生きている夫婦だが、『一山当てるか、無一文か』というタイプで、伝説的で貴重な鉱石トリオクトン結晶を発見するという微かな望みに命を賭けて探鉱者になるというのが、この夫婦が自由意志で選択した道だった。何処か主流世界の所得を保証された社会で消耗していくというのは、彼らにとって退屈な生き方だったのだ。顛難辛苦、やり甲斐のある仕事の方を彼らはとった。一生涯『黄銅鉱』を追い求める生活だ。だが、ついに養父母に運が回ってきた。マイカのお蔭だ。二十一歳の時、マイカは切望していたトリオクトン結晶鉱脈を偶然に発見した。超宇宙船の残骸のすぐ近くだった。馬鹿げた噂が起きた。ある時『クレージー・ホース』医師が酔っ払って喋ったことが元になったとされているが、マイカの異星人の血にはトリオクトンの粒子が入っていて、設定された時刻にそれが作動して、彼を結晶鉱脈に『導いた』というのだ。(伝説によると、トリオクトンは、超宇宙船の動力源・推進力源だったという。)マイカは、利益の半分を養父母にあげた。彼らはそれで賛沢三昧の旅行をし、この地域の統計寿命は八百歳だが、それを適法範囲内である二十五%延長する延命許可を購入した。
 マイカもこの小惑星を離れた。何でも学び、知り、経験したかったのだ。だが、あちこちと広範囲の旅行をし『賛沢に遊び暮す』ことを僅か数年間やっただけで、一か所に落ち着くことにした。由緒あるボウルダラム大学で教育を受けるためだ。当時、科学技術専攻が流行の最先端をいっていた。採掘機械から貨物宇宙船まで各種の機械を修理するかたわらパラメディックの仕事もしていたマイカにしてみれば、科学技術は一番楽な分野だ。それにも拘らず彼は、落ち着いた、夢を誘うような研究が出来る文科系を選んだ。だが、その当時は思いもよらなかったことだが、彼の大学生活は落ち着いた生活とは程遠いものになっていく。学生会は大胆なまでに新しい挑戦課題をいつも物色していた。そうした中でマイカは、『革命的世界救済思想』という益々ぐつぐつと煮えたぎっていく騒然たる状況に、自分自身が巻き込まれて行くのを避けることが出来なくなった。ボウルダラム大学の古い紀要で彼はあることを発見する。近くの大学でマイカの養父母が同じように挑戦的な課題を求める環境にいたという事実だ。養父母が探鉱植民地の辛い生活に踏み出す以前のことだ。彼らが選んだ道は馬鹿げている、とマイカには思えた。だが、数年後には、彼も全く同じ道に進むことになる。『先駆者的考えを持つ』学生グループの指導者に選ばれたのだ。だが、彼の嗜好は、不毛の小惑星ではなく、何処か青々とした緑が多い世界にあった。間もなくして彼は、『自然に復帰しよう』とする開拓者のカップル五十組を率いて、遠くの全くの処女惑星に向かった。連盟資源局から彼の植民グループに七百年間リースされた惑星で、彼自身が大株主であり、創始者となる予定だった。彼は自分が熱愛する非常に美しくて強い女性開拓者、リーンダー、を妻としてまた協力者として同行した。その惑星はマイカンダーと呼ばれるようになった。七百年というリース期闇は、この辺りの平均寿命である八百年を優に下回っている。この寿命は、地球人のような『短命』種族から見れば恐ろしく長く思えるが、それほど恐ろしく長いという訳ではない。寿命にあわせて計画を立て、それに従って生きれば良いのだから。
 他の惑星の人口は遺伝学的に標本を採られ、最低限の増殖しか出来ないが、惑星をリースした新『マイカンダー人達』は、一夫婦につき、結婚後五十年以内に子供を二人までもうける権利が与えられた。その後は、強制的に不妊処置が施されてしまう。このように低い出生率であっても、僅か三世紀も経つと、当初百人であった人口が三千位に増え、更に四世紀経つと、百万の大台に達した。
 最初、マイカは家庭人、家長になり、根気よく働く開拓者・農民の良き生活に身を打ち込み、自然と共に生き、先頭にたってこの人間杜会の成長を引っ張っていた。どんな種類であれ、いかなる機械も使うことは許されなかった。森林を切り開くことも、家を建て、土地を耕す仕事も、それこそ何から何まで、手で使う道具や原始的な装置を使っての手作業だった。だが、馬や牛、家禽類や犬や猫に似た役に立つ家畜も連れてきていた。最初に輸送してきた山のような生活用晶は、貨物宇宙船が飛び去って行った時点で、安全な『固いハードコア』式基地に隠された。それから、移住者達は意図的に文明世界とのつながりを永久に断ち切った。もちろん、移住者達全体の安全と幸福を守るために、連盟が探査機械のようなものを使って定期的に行う監視活動は別であるし、十年に一度、査察ロボットが強制的に行う検査も例外だ。こうした中でも、移民者達は孤立状態に大変満足し、機械化されてはいないが最も人間的な農業社会の極々単純なことで自らの存在を満たすだけで満足していた。そして、数年間一生懸命仕事をした結果、家族用に農場内に居宅を建てることが出来たし、開墾した畑を耕すうえでも、重要なサービスを得られるように小さな町を作るうえでも、幸先の良いスタートを切った。
 開拓を始めて三百年程経つと、薬草や花に対して強い関心を持っていたことから、マイカは自家製治療薬の副業を始めた。これが徐々に拡大して家族経営の手堅い商売となっていき、惑星外にも若干輸出するようになった。輸出が始まったのは、開拓開始後六百年位たって惑星の人口が二十五万台になってからだ。その時点で、当初の開拓認許状にしたがって、慎重ながらも外部世界との再接触が始まった。マイカの妻が事故死したのもこの頃で、それが原因で『老人』は情緒危機に陥り、立ち直るのに長い時間を必要とした。
 本当に忙しい生活がしたいと思ったマイカは間もなく、自家製治療薬の星間巡回販売を始めた。自分の惑星近くの星群全体に販売網を確立し、同業者と合併を繰り返した結果、マイカは銀河系のほぼ全域を網羅する複合企業を組織するまでになった。当然、一流の敏腕をふるい、政治家とのコネもできた。マイカの視野は急速に広がり、生活のぺースも益々加速して、かつての『簡素な生活』どころではなくなった。このようにして、マイカの人生の第一段階は七百三十歳で終わりを迎えた。同時に、彼の惑星のリース期問も終了した。そして、マイカンダーというユニークな社会を創設した優れた功績に対して、連盟は彼の寿命を五千歳まで伸ばした。これは、百万人に一人しか与えられない滅多にない名誉なことだ。更にマイカは、母校のボウルダラム大学から名誉博士号も授与された。
 連盟の半分以上の場所では、人間の平均寿命は地球年の二百歳で、半分以下のところのいわゆる『長命』の寿命は八百歳だ。子供時代と青春期は地球のと同様で、十八歳から二十一歳で成年に達する。壮年期は三十五歳から五十歳の間だが、長命の場合の壮年期は安定した『最盛期』の状態で五百歳まで続き、その後に二百年間の中年期が来る。高齢による衰退期は七百歳ぐらいを大分越えてから始まる。
 非常に優れた功績のある個人に対して、連盟は寿命を五千歳まで伸ばすことが出来る。延命処置は極秘のクリニックで行われ、(『延命者』と呼ばれる)寿命の延長を受けた者は百年位に一度クリニックに戻って追加処置を受ける必要がある。これは生物学的処置というよりも、本質はサイ粒子にかかわり、オーラを徹底的にいろいろと調整をする。
 また、極めて稀有な場合、代替の効かない不可決の一握りの個人については、ガーディアン評議会が、三万五千年から四万年まで肉体面で第二の延命を与えることがある。(こうした寿命延長者は『最延命者』と呼ばれる。)最初の処置とその後の追加処置はガーディアン達が超次元的に行うが、そのプロセスは不明だ。
 『延命者』と『最延命者』の有機組織は『最盛期』の良好な状態で機能し、定期的に若返りの追加処置を受けて、エネルギーの落ち込みや生体面の衰退を防いでいる。無限とも思える寿命に心理面で対処する一助として、若返りの追加処置を施す時が、長い期間と期間を分ける節目の役目を果たすことがある。また『延命者』は(色々な段階の生活様式、連盟の仕事をしている時の使命や任務などによる)もっと細かい『時代』に区分することも出来る。そうして、ずっと管理し易くなった枠組みの中で、延命者は一時代一時代に対処し、目前の仕事や出来事に専念するのが普通だ。普通の人間の生き方と同じだ。

 ***

 次に、マイカはマイカンダーでの役割を自分の後継者と無数の子孫に託し、新たに延びた寿命で、新しい活動の場を探し始めた。そして、自分の属する星群(『密接に』纏まった一団の星の周囲にあって人が住む百の惑星て構成されるグループの政治に深く関わるようになった、その後の二千年間程、マイカの生活は益々複雑になり、行動半径も拡大の一途を辿っていき、今や、銀河系全体に広がる人脈を持ち、銀河系間問題調整官でアルドヴァールという高官とも友好関係を結ぶようになった。隠れた存在だが最高の影響カを持つ、連盟の上に立つ統治機関『ガーディアン評議会』とその難解な物事のやり方について知るようになったのも、ある合同会議での場で、アルドヴァールを通してだった。マイカはアルドヴァールに連れて行かれた高級レベル会議に参加もした。そこで、評議会から派遣されている肉と血もある生身の特使、第五等級宇宙促進者であるケンティンに初めて会った。その後、マイカ、アルドヴァール、ケンティンの三人の間には、いろいろな会議に出席し活動を共にするうち、滅多に見られない程強い絆が生まれた。それから数十年後、アルドヴァールが連盟保安局のボーダー・パトロールの現場勤務に異動を願い出ると、マイカは空いたポストにつくよう要請される。彼はこれを受け、それからおよそ一千年間、四千歳になるまでその職に留まった。
 マイカは、銀河系間間題調整官を務めながら、経験、英知、力量の面で着実に成長を続けたが、他方、心の中では、何かもっと深遠な生き方を強く求める止むことのない疹きも強まっていった。動き出そうと決意したのは、アルドヴァールが悲劇的な死を遂げたというショッキングなニュースを遠くのボーダー地帯から受けた時だった。そこで、マイカは職を辞し、公務から身を引いた。四千歳なので、残りの一千年を、存在の意義、特に自分の存在の意味を自分で探し求めるのに使うことにした。社会から離脱し、大宇宙の探求に出た。マイカは、ボウルダラム大学のために秘密の研究を行う認可と、目分が考えている数々の旅行を制限を受けずに、しかもスター艦隊にとっても受け入れやすい形で行うための認可も取り付けた。信じられないほど巨額の富、自分の財産のほとんど全部を注ぎ込んで、超宇宙船級の最高速で最高水準の一人乗り宇宙船を手に入れた。ケンティンの推薦で連盟の許可をもらい、その宇宙船を改装して宇宙艦隊級標準性能を持たせた。
 宇宙艦隊級標準とは、部門間ジャンプ、銀河系間ジャンプ、スター・ゲート問の超レーン旅行、さらには次元間移行が出来ることを言う。何百万光年も離れた信じ難い程遠くの系に行くには、こうした交通手段がどうしても必要で、それがなければ宇宙艦隊は連盟を纏めることが出来ない。今やマイカにとっても、同じように遠くのいろいろな目的地に行くには、これが必要なのだ。スター・ゲートによるジャンプから出ると、マイカの宇宙船は五百Cの安全巡航速度が可能で、それで望む系に到達出来るし、必要な場合は一千Cの緊急用速度も使える。別に、マイカとしては連盟の広大な三十三部門をすべて廻りたいということではない。何しろ連盟というのは、多次元宇宙の中の既知宇宙のうちの十二個を通る無数の星群や銀河系の一部で構成されているのだ。そういうことではなく、マイカが望んでいるのは、数人の伝説的賢人とじかに会いたいだけだ。賢人達は広範囲に散らばっているが、その居場所について、マイカは銀河系間問題調整官を辞職する前に調べておいてある。だが、この比較的『控えめの』旅ではあっても、一世紀や二世紀はかかるだろう。まして、超ドライブという速度の遅い宇宙旅行では、スター.ゲートによるジャンプとジャンプの間は誘発睡眠状態で数週間づつ費やさざるを得ないだろう。それぞれの訪問地では、その地に住む賢人の高度な哲学と形而上学的諸原理の枠組に先ずどっぷりと浸かってから、本人に直接会って徹底的に質問をしたいと思った。
 この放浪研究者という役は自分の気質にびったりだ、とマイカは思っている様だ。遠方の大学や遠くのソースから得た理解し難い教えを色々と研究し、宇宙船のコンピュータに山のような記録資料を取捨選択させ、そうして取り出したエッセンスをファイルさせた。本当に傑出した様々な人物や教師、更には神秘的な分野のマスターにも何人か会った。定期的に、一番近いヴェクター通信センターを通じて主題論文や経過報告書をボウルダラム大学に送信したが、これはひとつには引き受けた学術的責務を果たすためであり、また絶えず詮索してくる宇宙艦隊に悩まされないようにするためでもあった。しかし、そのうちに、宇宙艦隊の方は非常に協力的になった。特に、マイカが銀河系間問題調整官の非公式特使として地域的な採め事を幾つか仲裁することに同意してからはそうであった。
 このように、マイカは宇宙の探求に益々深くのめり込んで行く一方で、既知の領域から益々遠くに離れて行った。余り頻繁に流浪していたため、本流の『若返りクリニック』に戻るのを忘れてしまった。定期的な追加処置を受ける期限を大分過ぎてしまっていた。すると、大変奇妙なことが起きた。ある賢人を捜し求めて遠くの星雲を訪れていたときだ。ある日ホテルの部屋でマイカは、どう仕様もない眠気に襲われ、それが急に緊張性のものになった。ずっと後になって、つまり事件後に彼は知ったのだが、三十日間も昏睡状態だったのだ。その間、ホロ=ドキュメンタリーによる証拠によると、彼の肉体からは何かの有毒性液体が分泌され、それが固体化し、突き通せない鎧の甲殻となり彼を包み込んだ。明らかに、彼が持つ不可思議な防衛メカニズムによる保護膜だ。七日が経過すると、そのプロセスが逆転し、甲殻は跡形もなく有毒ガスとなって蒸発した。冬眠状態の肉体を保護するのに本当に素晴らしい方法だ。間もなく明らかになったが、マイカは自然に若返り処置を受けてしまっていたのだ!それ以来、マイカはわざと若返りクリニックに行かず、この自然の出来事が繰り返されるのかどうか知ろうとした。そして、確かに繰り返されたのだ。二百年後、周縁世界でマスター・ヘリクシーに意見を求めに行っている時だった。明らかに、マイカの自然的若返り処置は、遺伝子に内蔵されていたのだ。
 余談になるが、あの周縁世界で、マスター・ヘリクシイーはマイカに謎を一つ贈った。それには、『究極の知識からなる至福の世界』つまり、あの伝説的なアカシャンドを見つける鍵が秘められている。マイカは指示に従って、未知の領域に向かって追求を始めた。やがて、彼は手の込んだ謎を何とか解いた。答えは一連の乱数だった。その頃には、彼は最も遠く離れたスター・ゲートまで手が届く位置に来ていた。アルコナスの無人基地だ。例の乱数は多次元宇宙の何処かの、リストに記載されてない位置座標を示しているのではなかろうかと考え、もしかしたらアカシャンドではないかという突拍子もない予感から、マイカは乱数をスター・ゲートの移送回路に打ち込んだ。
 その結果は、物凄いものだった。宇宙の半分を長時間かけて荒れ狂う『超ドライブ』してマイカが着いた所は、光り輝く至福の世界だ。宇宙船のシャトルに乗り、着陸する。パステルカラー色の寺院、・広大な野外劇場、大きな柱がある大理石の大広問などが複数立ち並んでいる所の近くだ。ゆったりとした服を纏った人間達が、うららかな気候に包まれた場所の至る所にいる。何もかも誰もかもが生気に満ち溢れているようだ。新しい色が見え新しい音が聞こえる。その種類は際限がない。細部を見ると、どれもこれも物凄く鮮明ではっきりとしている。その様は、普通知覚される日常世界の域を越えている。
 『来世』でもなければ、アストラル界でもない。現実の場所だ。マイカ自身も光り輝き活気に溢れているように見える。彼は喜びを感じ、体も軽く、非常に寛いだ気持ちだ。他の人々と交わるのも、彼にとっては自然のことだった。皆、マイカと全く同じ理由でここに来たのだ。志を同じくする者同士だ。最高級の普遍的な教えを多くの偉大な師マスター達から嬉々として吸収し、伸間の『生徒達』と意見交換したり、セミナーを開催したり、出席したりしている。アカシャンドは、大きな楽しい学園社会みたいだ。マイカは満ち足りた気持ちがし、全く楽しかった。自分が必要としているものは満たされ、字宙船に対するアクセスも維持している。その宇宙船は今は最低限の『覚醒』状態で待機軌道にある。アカシャンドは時を越えた世界だ。彼自身も含めて、時の経過に関心を持つ者はいない。だが、一世紀も経ったかと思われる時が経過すると、飽和感が浸り始めた。そこで、彼は前進しなければという気持ちに突き動かされ、行動を開始した。知識の吸収は完了した、との認識が生まれ始めた。その時以降、マイカの生きる目的はただ一つ、奉仕と進化と精神的な発達だけになった。
 宇宙船に乗り逆行モードで連盟の有形世界に戻って驚樗した。現地銀河系標準時に再換算してみると、実際には彼がいない間に一万五千年が過ぎていたのだ。それだけでなく、彼はあらゆる点でずっと若返っているようだ。まるで三百歳位の最盛期に戻ったようなのだ!時間枠や計器類を何度も調べ、それでもなお混乱しているとき、彼は何かにぎょっとして警戒態勢をとった。背の高い人間の姿が突然、艦橋に物質化してきた。
 ガーディアン達の現身代理人のケンティンだ。マイカを励まし、訳の分からない出来事を説明しに来たのだ。マイカが本当に一万五千年も不在だったのは確かで、最盛期の状態に恒久的に若返ったのも確かだと、ケンティンは確認した。ケンティンが言うには、マイカが出発した時点で、スター・ゲートの自動警報装置が作動し、リストに記載されていない場所に誰かがジャンプしたのを知ったのだという。調査と座標追跡を行った結果、マイカがアカシャンドに向かったのだとケンティンには分かった。マイカの動機を理解していたので、ケンティンは心の中でその行動を許したのだ。
 ただ障害が一つあった。無人のアルコナス・スター・ゲートが弄り回されていたため、宇宙船がタイム・ワープを数回してしまい、一万五千年の時間のずれが生じてしまった。弄り回したのは、暗黒の勢力の手先で、故意の敵対行為のようだ。弄り回された結果どのような影響が出るかを調査しているうちに、アルドヴァールが暗黒の勢力の犠牲になってしまった。彼の前任者の連盟職員と同じように、アルドヴァールが乗ったジャンプ宇宙船はタイム・ワープの中に投げ飛ばされ、そこで彼は死んでしまった。年齢は五千歳を越えていた。だが、マイカの方はタイム・ワープで死ななかった。それどころか、逆に若返ってしまった。彼がそれに気がついていないとしても、不思議な『極長寿』種族の出身であったからであることは疑いがない。彼の若返りの引き金がタイム・ワープを経験しているうちにどういう訳か作動したのだ。
 ケンティンとマイカそれにアルドヴァールも含めて、三人一緒に何か『共同の役割』を『将来』果たさせることをガーディアン達は計画していたのではないか、とケンティンは考えた。最も、アルドヴァールの死でこの計画は明らかに後退してしまったが。その後、アルドヴァールは新しい肉体に生まれ変わっていることを、ケンティンは知った。現在二百歳となっており、昔の安全保障・諜報部門の『(警察犬)ブラックハウンド』の役割を果たすべく再訓練を受けている。
 さて、マイカの二回目の延命は既成事実となったので、公的な延命授与ではないにしても、ケンティンはこの実情を連盟に正しく登録させると約束した。それとともに、マイカが日常の本流生活で諸権利を回復し、控え目な形で戻ることも……


  第三節...スターゲート事件

 宇宙には時空の歪んだ特異点が存在する。この特異点を通れば数百万光年離れた距離を瞬時に移動することが出来る。光速を越えるスピードを持つ彼らの乗り物でも、畏怖の念を起こさせるような数千万光年、数億光年といった距離を移動するには、こういった特異点を利用する航法を取らざるを得ないという。そしてこの特異点をスターゲートと呼んでいるらしい。
 だがこのスターゲートは、別世界からの侵略の通り道ともなりうる。今回の話は、惑星アルコナスの近くに存在したスターゲートで起こった紛争の記録である。
 

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  登場人物

マイカ 主人公。
ケンティン 第五等級宇宙促進者。マイカの友人
アルゴン アルドヴァールの生まれかわり。マイカの友人


 「それでは、人生の後始末をしませんとね。手始めに、ボウルダラム大学に立ち寄ることにしましょう」
 とマイカが言う。
 「場所は何処であれ、それは君が決めることだが、私の助けが必要な時は、連絡をするように」
 別れ際にそう言って、ケンティンは姿を非物質化して艦橋から消えた。
 マイカは急いで主流に戻りたいという気にならなかった。そこで、宇宙船をボウルダラムに戻るよう自動帰還に設定してから、シャトルで惑星アルコナスの何処かの海岸の側に降りていった。着陸地点は、連盟の監視前線基地から惑星を半周した裏側にあたった。その基地へは、ゆっくりと『遊動民的』な放浪をしていけば、変化に富んだ地形を横切って二年間位で行き着ける。大昔に、惑星マイカンダーで経験した開拓時代の初期を何となく彷彿とさせる。基本に立ち戻って、また肉体が中心の生活になるのだ。自然と調和した生活、隠遁者みたいに、大地に頼っての生活だ。スター・ゲートの奇妙なタイム・ワープを引き起こす原因の手掛かりも得られればいいがとも思った。
 そこで、丈夫な全天候型の服を着て、軽いバックパックだけを背負い、ゆったりと歩き始めた。全体としてみると楽しい経験だ。気候はのどかな時もあれば荒れる時もある。飽くことなく変わりゆく周りの状況に魅了され、連星系の二つの太陽が引き起こす、絵に描いたような不思議な色彩の組み合わせにうっとりとする。日の出と日の入りをしょっちゅう見ているので、アカシャンドのさまざまな教えを沈思黙考するのが当たり前になり、やがて瞑想するようになった。平和で、思索的な、非常にゆっくりとしたぺースの生き方に満足感を覚えた。自然とも、この不思議な惑星のリズムとも、息が合っている。
 ここに来てからおよそ一年半が経過したある日没時に、不毛の岩からなる丘の上に座り瞑想をしていると、かつて一度しか経験したことのない奇妙な感じに圧倒された。子供時代を過ごした故郷の小惑星で、あの伝説的なトリオクトン結品が隠してある場所を発見した瞬問に感じたのと同じ、あの奇妙な気持ちだ。
 マイカは瞑想を打ち切って立ち上り、まるで吸いつけられるように、丘を横切って歩いていく。その先には茂みに隠された大きな洞窟の入り口があった。弱い日光の中でも、直感が正しかったことが分かった。トリオクトン結晶を含む膨大な鉱床が洞窟の天井、両側の壁、足下を覆い尽くし、ルビー色、エメラルド色、それにスミレ色の三色がキラキラと光り輝き、催眠状態を引き起こすような魔力を放っている。それに、意外な物体も幾つかある。頑丈なコンデンサーが積み重ねられ、超高周波発生機に繋がっている。各種の電気装置や電子装置が至る所にばらまかれている。結晶のエネルギーを人問が利用していた様子が窺える。マイカには間もなくこの設備の使用目的が分かった。アルコナス・スター・ゲートの特質の徹底的な監視と、超高周波フィードバックでその特質を変えようとするのに使ったのだ。だが、利用出来るパワーだけでは、変化を起こすのに全く不十分のようだ。膨大な量のフローチャートやコンピュータ読み出しを、拾い読みしたりさっと見たりしただけでは秘密を解き明かせないと分かった。だが、直感で何かを掘み取ろうと、衝動のおもむくまま、結晶板でできたコレクターに似た台に座ってみる。望遠鏡みたいなキャノン型の装置の下で、スキャナー・スクリーンのグラフィックスが示しているスター・ゲートの異常場の中心と一直線になっている所に座った。
 そこでマイカは深い瞑想状態に入った。異常乱流と惑星の地面とを結ぶコレクターの焦点を人間が務めようと
いうのだ。彼のマインドが、結品が蓄えていた膨大な量の情報で一杯になった。マインド連結が作動すると、スター・ゲートの乱流の場が大洋の干満のように自然に循環しているのをマイカは感じとった。だが、複雑な力の相互作用を通して、別のものが侵入して来るのも感じる。異質のパワーによる波長変換効果を持った、巻き毛状のものだ。もっとはっきり一言えば、別の世界から計算づくで操作しているようだ。そしてその世界から、宇宙船のような物体群が『周期的に』乱流の場に送り込まれ、アルコナス・スター・ゲートを通ってこちらに向かっているのだ・・・
 マイカのリンクが出し抜けに途切れた。誰かが洞窟に入ってきた。背の高い壮年の男性だ。フェイザー銃を構えている。
 「俺の機械をどうしようってんだ?」
 「いや、別に。ただ、開いてたんで、中に入ってあんたの設備を眺めて、スター・ゲートをどうするつもりなのか、ちょっと調べていただけさ」
 「こりゃ、驚きました!貴方は昔のマイカみたいですね、ここの『場』の機能不全で大昔に死んだはずの。ところで私は、連盟宇宙艦隊諜報部のアルゴンといいます。現在は休暇中の身です。この惑星の生まれで、『科学区域』に住んでいたここのスター・ゲート管理人夫婦の一人息子です。この設備は私個人のプロジェクトで、百年前、ここの『場』の機能不全の謎を解決しようと始めたものです」
 「いかにも私はマイカ。タイム・ワープを生きのびたんだ。かつての親友、アルドヴァールは死んでしまったが。あんたはそのアルドヴァールにひどく似ているな」
 「やっぱり!」
 そう言うアルゴンの声はゆっくりだが、少し震えている。
 「自分の前世はそうだろうという気がいつもしていましたが、貴方のお蔭で確信が持てました。私はアルドヴァールだったのです。一旦はここの破壊的な乱流の犠牲になりましたが、再び肉体を与えられ、ここの『場』の歪みを執勘に調査しています」
 「残念だが、今度は複雑な要因がもう一つある。『場』が故意に操作されているのだ。それが拡大され、異質の宇宙船が未知の世界から送り込まれている」
 「ええ、知っています」
 とアルゴンが頷く。
 「今日、卑劣なあいつらの二機目を何とか撃墜してやったところです」
 「それは良くやった。だが、まだ足りん。最初にやって来た奴等は偵察が目的だ。間もなく大挙して侵略して来る」
 マイカはフローチャートを拡大したスクリーン・ディスプレイを指し示す。
 「それどころか、このさざなみの様子では、既に六機編隊が新たに通過してきている」
 「その通りです。ここを出ましょう。まごまごしていると、生体放射物やパワーの入った設備の放熱で奴等に見つかってしまいますよ!」
 アルゴンは叫び、マイカを半ば引きずりながら、マスター・スイッチを切った。
 二人は蹟きながら暗い夜を突き進む。待機していたアルゴンのホバー・クルーザーに飛び乗ると、ただちに発進した。マイカは、監視所とそれに隣接している『科学区域』に向かっていると思った。だが、それほど行かないうちに、搭乗機の通信設備のスピーカーがパチパチとなり、緊張した男性の声が危機状況を伝え始めた。ところどころ音声が弱くなったり、爆発音が混じる。
 「・・・メィデー、メィデー。こちら、惑星アルコナスのスター・ゲート監視所……正体不明の敵性宇宙船数機から猛烈な攻撃を受けている・・・『科学区域』は既に壊滅状態だ……ここのシールディングで後どれ位持ち堪えられるか分からない・・・大規模な侵略艦隊がアルコナス・スター・ゲートの狂ったような乱流を通って、連盟空域に押し寄せているようだ・・・この救難連絡を聞いた者は、ただちに宇宙艦隊司令部に連絡されたい・・・メイデー、メイデー・・・」
 音声はそこで途絶えた。アルゴンがパチパチなっているスピーカーのスイッチを切り、目茶苦茶に混乱している計器の表示とスクリーンに映る画像に注意を向ける。
 「駄目です、壊滅です」
 アルゴンが重々しく言う。
 「暫くの間、結晶の洞窟にも戻れません。戻ったら、場所を知られてしまいます。強化カモフラージュ・フィールドは完成してません、もう少し作業が必要です。遠くの森林の中にある私の隠れ場所に急いだ方が良いですね」
 「見つかる可能性は?」
 マイカが尋ねる。
 「まず大丈夫でしょう。隠れ家のカモフラージュ・フィールドは、おざなりの走査探索なら大丈夫です。徹底的な索敵はやらないでしょう」
 時間が経ってから、惑星の遠くの方の日の光を頼りに、ホバー・クルーザーは大木が生い茂るうっそうとした森の中に潜り込んでいった。上は、葉群が何層にも厚く重なり、見通せない天蓋となっている。着陸したのは、小ワープ型のカモフラージュ・フィールドの中で、ディッシュ・アンテナのようなジャイロスコープ式衛星追跡装置の隣だ。小型の追跡装置やジェネレーターや組み立てユニット式の倉庫も幾つか置いてある。
 「なかなかの設傭だな」
 とマイカが言う。
 「ええ。元々は実験用でした。緊急時にも使えるようにしておいたのが、いま役立ちますね。大きいディッシュは、太陽電池式の小型高感度衛星にロックしてあります。連星系の中とスター・ゲート周辺を通過する物体や通信をモニターするのに役立ってます。小型の追跡装置は、主として周辺防衛用の『自動』レーザーやフェイザーです」
 マイカは辺りを調べに出かけた。最初は歩きで、次には獅子鼻型の地上高速移動車に乗って行った。周囲は静かで、平穏そのものだ。だが、マイカは何か危険が差し迫っているという気がして落ち着かない。べースに戻ると、アルゴンが通信装置のところで厳しい顔をしている。連星系の近くにいる宇宙艦隊の船団が発信した解読送信の終わりの部分を受信したところだ。
 「・・・ばらばらに破壊されている。味方の残存部隊は敗走中・・・艦艇数も砲数も、数段優れた異星軍に圧倒されている。宇宙艦隊が大量の火器を持って早急に反攻されんことを進言する・・・」
 アルゴンは、全体の送信内容と他の通信断片、それに映像も一部再生する。戦闘場面、侵略者側の宇宙船の近接拡大画面、字宙艦隊の艦艇同士の交信などを見たり闘いたりしても、侵略者の正体も分からなければ、侵略の動機も分からない。
 「ついでに言っておきますが、この送信はどれも侵略者が行ったものではありません。奴等は、私達が知っている通信方法は使ってないんです」
 アルゴンが喋る。
 「どうも良く分かりませんね・・・」
 ホバー・クルーザーの警報装置が金切り声を上げる。状況を示すスクリーンが敵機の急接近を知らせる。轟音と共に爆発が起こり、クルーザーがぐらぐら揺れる。その後、もっと遠くで爆発が起きた。
 「やられました」
 アルゴンが叫ぶ。
 「でも、こちらの追跡フェイザーがあいつを直撃してばらばらにしてくれましたよ」
 「残念だが、間もなく新手の敵機がやって来るだろう」
 マイカが言う。
 「今のうちに逃げた方がいい」
 アルゴンが頷いて、制御装置に手を伸ばす。
 「このクルーザーはやめよう」
 こう言って、マイカが同志アルゴンを止める。
 「探知されにくい地上高速移動車を使って、結晶の洞窟に向かった方が良さそうだ。だが、その前に、このクルーザーを自動運転にして、別の方向に行かせ、囮にしよう」
 「そうですね。高速移動車用に動カパツクを幾つか余分に持っていきましょう。半日かかりますからね。でも、なぜ結晶洞窟に行くんですか?」
 「私にも分からんが、唯一残されたチャンスかもしれないという気がする」
 マイカは、トリオクトンの小片がコンソールの上から自分を誘うようにキラキラと光っているのに気づくと、思わずそれをポケットに入れた。
 アルゴンが自動制御装置をセットする。クルーザがひとりでに離陸していく間に、二人は地上高速移動車に向かつて走る。彼らが出発して間もなく、背後で何度か爆発が起こり、森の平和を切り裂いた。侵略者が隠れ場所を見つけたのは確かだ。
 高速移動車に搭載してあるミニコンピュー夕を使い、アルゴンが結晶洞窟に向かう迂回路をセットする。森林や深い渓谷を自然の遮蔽物として最大限利用しようというのだ。
 マイカは油断怠りなく座り、ESPのカが高まるのを期待してトリオクトンの小片を握り、前方に危険が潜んでいないか感じ取ろうとした。二人は一度だけ停止せざるを得なかった。マイカが何かを感じたのでパワーを全部使つて高速移動車を保護・遮蔽フイールドで覆い隠した。間もなく、その行動が正しかったことが判明した。ブリップが高速移動車の受動センサーに現れた。センサーの有効範囲は百六十キロだ。明らかに、敵機編隊が碁盤の目状に探索をしていることを示すブリップだ。
 やっと二人が結晶洞窟に着くと、そこはまだ無傷だった。保護・遮蔽した高速移動車を洞窟入口の中に置く。アルゴンの手際の良さとマイカの永年の経験で培った専門知識とを合わせ、数時間一生懸命に作業をして、強化保護・遮蔽フィールドを洞窟に装備した。その間二度、作業を中断し高速移動車の中に隠れ、異星の探索機に見つかるのを避けねばならなかった。異星の探索機が洞窟の受動センサー警戒装置の有効範囲に入り、警戒警報が発せられたのだ。
 洞窟の強化保護・遮蔽フィールドの装備が終わると、次に、アルゴンは、森林の基地に二人が逃げていった後に蓄積されたコンピュータの読み出しや、現状を示すグラフさらには各種の記録を急いで調べた。明らかに、数百もの敵大型戦闘艦艇が侵入してしまっている。スター・ゲートは侵略者に完全に掌握されている。連盟が最初に派遣した小規模機動部隊は破壊されてしまったか追い散らされてしまった。連盟の超空送信の解読を見ると、宇宙艦隊は大規模な動員をかけて、今や他の部門にも深く侵入してしまっている敵部隊の急侵攻に対処しようとしている。
 マイカは最新情報で現状を理解し、スター・ゲートを『見つめる』望遠鏡の下にある大きな結晶板に座る。即座に心が繋がるのを感じ、すぐに自分の存在が結晶群とリンクしてその完全な一部になっていき、周囲の結晶群が既に記録してある情報を感知出来た。こうして吸収した情報に照らしてみると、連盟世界にとっての展望は身の毛がよだつ程だ。
 「なかなか厳しい情勢ですね」
 アルゴンがため息をつくのが聞こえる。
 「それも、急速に悪化してる」
 マイカがアルゴンを見上げて言う。
 「これは氷山の一角にすぎない。結晶群とリンクして今分かったのだが、侵略者は何万もの宇宙駆逐艦からなる信じられないほどの大艦隊を集結させている。この大艦隊はこれから四日間に、スター・ゲートの循環期に合わせ十六波の連続波状攻撃をかけてくる」
 「でも、どうして? それに、侵略者の正体は?」
 アルゴンは声を出して考え込んだ。これまでも何度か同じ問を発していたが、別に答えを期待している訳ではなかった。
 「私なりの変わった方法で収集した情報から判断すると、どうも、例の『暗黒の主達』が背後にいるのかもしれない。もっとも、奴等は手の内を明らかにしたがらないが。全く異なる世界から想念構成集合体を、スター・ゲート無効装置にロックした顕現マトリックス化に送り込んでいるのだ。こうした想念集合体が正体識別不可能の戦艦に固体化し、それが破壊行為を行っている。侵略戦艦の搭棄員はESPで遠隔操作されている悪魔の化身だ。だから、通常の通信手段を使っていない」
 と、マイカが説明する。
 「今の情報は、この死んでる結晶群から得たんですか?」
 「その通り。何とも奇妙な『浸透』作用を通じて、このそれほど死んではいない結晶群から知識が沢山流れ込んでくるのだ。この結晶群は、十分に生きてる」
 「そういう状況ですと、宇宙艦隊がどんな策を講じても足りないし、遅すぎるということになりますね・・・」
 アルゴンが暗澹として状況をまとめる。
 「残念ながら、そうだ」
 マイカが悲しそうな調子で頷く。
 「だが、もし・・・」
 「もし、何ですか?」
 「もしもだ、もしも、スター・ゲートの乱流の場をランダム化した周波数帯変換で妨害してやれば、スター・ゲートの機能を恒久的に駄目に出来るかもしれない。そうすれば、侵略者の発射メカニズムが破壊される。そうなれば、宇宙艦隊は、既に侵入している敵機を一掃出来るかもしれない」
 「どうしたらスター・ゲートの場をスクランブル出来るんですか?」
 「うん、トランプの鬼札みたいなものだが、それでもなかなか難しいかもしれない。まず、頑丈なフィードバック・ジェネレーターを準備して、スター・ゲートの乱流からエネルギーを集めるコンデンサーとつなげる。それから、コレクターの極性を逆にしてレーザー砲として使いスクランブルをする・・・」
 「装備は準備出来たとしても、パワーが足りないですよ。今の何倍ものギガワットが要ります」
 とアルゴンが口を挟む。
 「確かにそうだ。コンデンサーの電荷は雷管としてしか使えそうもない。だが、もっと大量のエネルギーを、喜んで協力してくれる結晶から取り出ぜる。この場所が結晶を補充してくれる。そうすれば、この組み合わせをレーザー砲のビームとして使い、もっと膨大なエネルギーを変調して放射し、それで実際にスクランブルを行える」
 「で、その膨大なエネルギーはどこで手に入れるんですか?」
 「この連星系の双子の太陽が、必要とする膨大なエネルギーを供給してくれるさ。放射装置には、そのような離れ業を出来る外部の者が必要だが、そんなことが出来る者で、考えられるのはケンティンしかいない」
 「ケンティンがそんなすごい離れ業を出来るとしてもですよ、貴方の突拍子もない構想にはまだ欠陥が幾つかありますね。たとえば、ケンティンが、いま何処にいるのかも分かりませんし、そのどこにいるのか分からないところから、敵に知られずに、どうやって予定時刻に遅れずに、ここに来れるんですか? それよりも、彼を呼び出すのに、侵略者に私達の居場所を知られないようにどうやって連絡するんですか?」
 アルゴンは、酷く苛立ちながら、首を振った。
 「不可能のように聞こえるかもしれないが、一綾の望みはある。それに、私達にとっても私達の諸世界すべてにとっても、これが唯一のチャンスだ」
 それがマイカの答えだった。
 「他に良い考えがないなら、私の計画を進めよう」
 「分かりました。何から始めますか?」
 「私はテレパシーでケンティンを呼び出してみる。意識変更状態になって精神統一を一、二時間しなければならないかもしれない。その間、コンデンサーを一つ残らず、スター・ゲートの乱流から集めたエネルギーで充電し始めてくれ。それから、特別丈夫なフィードバック・ジェネレーターを作り上げてくれ。出来るか?」
 「機能する装置を何とか出来ると思います。何と言っても、この洞窟の設備は、もともとは私が作ったんですからね」
 「全くそうだ。しかも、ここの設備が唯一の頼みの綱だ。とはいっても、完全に成功させるには、私達三人の協力がいる。つまり、君と、私と、ケンティンだ」
 「それでは、始めましょう」
 と、アルゴンは言いながら、もう装置類を掻き回して物色を始めた。
 マイカは洞窟の奥のほうに引っ込み、結晶板で囲まれて揺りかごのようになった所に入り、横になり、耳に栓をして目を閉じた。即座といっていい程すぐに惑星の磁気エネルギーと同期し、次に徐々に結晶の囲いが発する愛撫するような振動に融合していくのを感じる。強まっていく至福の状態に自分の全存在が引き込まれていく中、マィカはケンティンの顔をイメージすることに集中した。同時に、心の中でこういう言葉を繰り返した。
(メイデー、メイデー。ケンティン、直ちにアルコナスに来て下さい。敵の侵略をここのスター・ゲートで食い止めるのに、貴方の密かな助けが必要です)
 それからマイカの意識は知らぬ間に何処かにいってしまったに違いない。その後のことは覚えていないのだ。大きな物音がして、彼は目を覚まし、上半身を起こした。
 「申し訳ない、マイカ」
 アルゴンが壊れた機材を指し示す。未だ燥っている。
 「最後のコンデンサーがパワーの急上昇でオーバーロードし、駄目になってしまいました。そうでなければ、私の方の技術面の準備はほぼ完了です。二時間くらい意識を失ってましたが、どうでした?」
 「大丈夫だと思う。意識を失う前のことだ。たぶん、はっきりとしたESP送信が出来たと思う」
 こう言って、マイカは立ち上がり、体を伸ばす。
 出し抜けに、トランペットの音が洞窟の入口から聞こえてきた。続いて、陽気な声で誰かが叫ぶ。
 「こんちは、誰かいるかい?」
 人間の姿が入ってきた。優雅なタキシードを着て、片手にトランペットを持っている。ケンティンだ。
 「ど、ど、どうやって・・・?」
 ドラマみたいな登場の仕方にびっくりして、アルゴンが吃る。
 「マイカの救難連絡を受けて、走ってきたんだ」
 ケンティンが説明する。
 「第十七ZR部門の新地域総督就任舞踏会から急行せざるをえなかったんだよ」
 「そうはおっしゃいますが・・・一番速い方法でも標準日で四十日以上かかりますよ。現実離れしてますよ!」
 アルゴンが感嘆する。
 「だから、公共輸送機関は使わず、何度か近道を取ってきたんだ」
 ケンティンがピエロがよくやるように肩をすくめたので、緊張した雰囲気が和らぐ。
 「ところで、どうしたんだね?」
 二人はケンティンに手短に状況を説明し、記録資料の抜粋を見せ、二人が考えた暫定的な戦闘計画も説明する。
 「状況がこんなに厳しいとは思いもよらなかった。もっとも、深刻な侵略と戦争の危機がこの部門で起きているという話は、既に間接的に聞いてはいたが」
 現状説明を受けたケンティンは今や、一心不乱にコンピュータ読み出しを使って、データの相互チェックや計算を行っている。数分してから、口を開いた。
 「そうだな、マイカの突飛な計画はうまく行くかもしれない。運が良いことに、マイカはこのトリオクトン結晶とは従兄弟だ。結晶質の分子が生まれつき血液に入っているからね」
 「というと、例の噂はやはり本当なんですか?」
 マイカが目を大きくして訊く。
 「そうだ、本当だ。だが、この計画は私の判断では出来ない。許可と特殊機材をガーディアン評議会から貰ってこなければならない」
 「評議会が承認するとしても、どのくらいの時間がかかるんですか?」
 アルゴンが不安げに眉をしかめる。
 「私が救難連絡を受けてからここに来るのにかかった時間と大して変わらない。この状況では、評議会も賛成してくれると思う。私が戻る迄、君達二人は戦闘態勢を万事整えていてくれ。侵略者に発見されないよう、目立たないようにな」
 ケンティンは手を振ると、非物質化してゆっくりと洞窟から消えていった。
 アルゴンとマイカは、ケンティンが可笑しな格好で救援に駆けつけたあとテレポートで消え去っていくという唖然としてしまうような状況から気をとり直し、準備の仕上げにかかる。もちろん、侵略のその後の動きの監視も怠りない。戦局は刻々と厳しさを増していく。侵略者の戦艦の第一陣はすでに連盟の各部門深くに浸透し、破壊の跡を残している。抵抗する各基地やその近隣地区を爆破し、勇敢な宇宙艦隊の反撃によって受けた損失は微々たるもので、前進を妨げるほどではない。宇宙艦隊の総動員がかけられてはいるが、侵略者の新手の一波がいま侵入してきたばかりで、事態は更に悪化するであろう。
 「ケンティンが消えてからもう三時間くらい経ちますよ。侵略者の次の波が二時間後には押し寄せてくるというのに、どうしたんでしょう・・・」
 アルゴンが心配そうに言う。
 「次の波が来るまでにはたっぷりと余裕を持って戻ってくるさ。私の感じでは、もうこっちに向かっている」
 とマイカが応じる。
 すると、何と、それから数分もしないうちに、ケンティンが実際にやって来た。大きな声で「やあ」と言いながら、にこにこしている。タキシードを着たままで、依然として優雅で沈着そのものだ。
 「良いニュースだ」
 ケンティンが宣言するように言う。
 「認可は貰った。ガーディアン達は非常に心配している。暗黒大君主達の仕業ではないかと強い疑いを抱いている。ま、とにかく、異例な措置、つまり、特殊装置を貰ってきたよ。大きさが都市ひとつくらいある、レンズ型をした結晶集合体の超宇宙船だ。これで、この連星系のソーラーパワーを集める。結晶のレンズ型宇宙船は工ーテル次元にあり、この洞窟とスター・ゲートの間の戦略上の焦点にすでに配備済だ。私の命令があり次第、物質化してすぐ機能できる態勢にある」
 「そこで、さっき相談した通りに進めることにしよう」
 ケンティンが話を続ける。
 「マイカは、この惑星のクリスタルパワーを取り出し、それをコレクター・キャノンのマトリックスに誘導し、そこで乱流の場から得たエネルギーを供給したフィードバック・ジェネレーターと同期させて貯める。アルゴンはスター・ゲートの場の循環を綿密に監視して、侵略者の次の波の数分前にコレクターの流れを逆転してキャノンにする。また、タイマーをセットして、スター・ゲートの場と百八十度ずらして、最初は二十秒間のバーストを行い、次にランダム異位相バーストを何回かやって効果的なスクランブルができるようにする。こうした措置を全部セットしておいてから、侵略者の次の攻撃の波が発進してから一秒後に、アルゴンが引き金を引く。それを合図に、私が結晶のレンズ型宇宙船を物質化し、その変調ギガビームで乱流の場に大混乱を引き起こしてやるのだ」
 「一緒に、その侵略者の波の宇宙船を乗組員もろとも破壊するというわけですね」
 とマイカが言う。
 「そうだ」
 ケンティンが頷く。
 「現下の状況では全く必要かつ適切な措置であって、報復ということではない。この惨禍で、このような侵略をしようとする新たな試みが思いとどめられるはずだ。それに、このアルコナス・スター・ゲートは今後通過不能になる」
 「侵略者達が他のスター・ゲートを使って侵略しようとしたらどうなるんです?」
 「その可能性は極めて少ない。ここのスター・ゲートが使えるようになったのは、さまざまな要因が独特な形で組み合わさったからで、そうした組み合わせは他ではまず見つからないだろう。更に、今後はすべてのスター・ゲートが厳しく守られ監視されていく」
 ケンティンはあちこち動いて読み出しを見、最後のチェックを行ってから、次のように断言した。
 「次の波の正確な時間の予測はできない。間隔が六分以上に広がってしまっている。敵はランダマイザーを導入したに違いない。こうなると、アルゴンが引き金を引く瞬間を決めるのに、徹底した監視が前より一層大事になるぞ。マイカは手助けができないからな。マイカはここのクリスタル・パワーを利用するのに没頭しなければならない」
 「三十分もしないうちに、一介きりの勝負が始まる。さあ、いよいよだぞ・・・」
 ケンティンは手を振り、そしてゆっくりと非物質化していった。
 クラクションの警戒音が洞窟内に鳴り響いた。
 大事な時がやって来たのだ。アルゴンの態勢は十分整っている。電子装置のフローチャートに急降下が現れ、敵の新手の波が発射されたことを示している。数百の新手の戦艦がスター・ゲートの乱流の場を通ってこちらに向かっている。到着は四十五秒後だ。アルゴンは望遠鏡のスイッチを『コレクター・モード』から『キャノン・モード』に変え、引き金を引いた。
 スクランブル用のビームから出る物凄いエネルギーの急増で、読み出しが狂ったようになる。アルゴンは映像スキャンナーのスイッチをひとつ残らず入れ、今や完全に物質化して機能し、恐ろしいビームを出している結晶のレンズ型宇宙船に焦点を固定した。スクリーンに拡大して映し出されたレンズ型宇宙船は、始めは弱く赤く輝いていたが、それが猛り狂って白熱に光り輝く小太陽へと変化していく。センサー計器類は物凄いエネルギーの過剰負荷と臨界状況の放熱を記録している。二分もしないうちに、結晶のレンズ型超宇宙船が溶け始める。三十秒後、巨大な爆発の画像がスクリーン一杯に広がる。結晶のレンズ型宇宙船の最後だ。アルコナス・スター・ゲートの通路の最後でもある。乱流の場が逆転不可能の荒れ狂う振動状態になってしまったのだ。恐らくケンティンも死んでしまったのだろう。アルゴンは立ち上がって体を伸ばしながらそう思った。
 洞窟も目茶苦茶だ。コンデンサーやジェネレーターは言うに及ばず、望遠鏡型キャノンの一部もまるで稲妻に打たれたように燃えてしまった。マイカが斜めに横たわっている。死んでいるか意識を失っているようだ。アルゴンは屈みこんで調べようとした。と、聞き覚えのあるケンティンの声が肩越しに聞こえてきた。
 「マイカは数分したら回復する。レンズ型宇宙船の爆発でコネクションが切れてエネルギーの反動が起こり、そのショックで気絶しただけだ。この洞窟の半分が焼けてしまったのも同じ理由だ。私は運よく一秒前に飛び出せた」
 「そうですか」
 というアルゴンの声からは、一大ドラマの緊張によるこわばりがまだ感じられる。
 「あっという間の凄じさでしたね。でも、これで終わったんですよね」
 「そう、これでおしまいだ」
 ケンティンはそう言いながら、意識を回復したマイカが立ち上がるのに手を貸す。
 「もっとも、宇宙艦隊の方は、すでに浸透してしまっている敵との戦闘でもうしばらくの間は休めないだろう。だが、ここの戦いに勝ったことで、大勢は決まった。ガーディアン評議会の予測は正しかった。他に類を見ない私たち三人組がこの難しい局面を必ずや克服すると予測していたのだ。」

 侵略者の正体は分からなかった。彼らはコミュニケーションを行わなかったし、敵機は一機も生け捕りにできなかったのだ。敵機のほぼ半数が戦闘で破壊されると、残りの半分は同時に自滅してしまった。
 連盟に平和が戻った。だが、宇宙艦隊も大きな損害を被った。アルコナス・スター・ゲートは通過不可能となり、他のスター・ゲートの守りは厳しくなった。
 戦いが終わり、いろいろな演説が行われ、祝賀会が催された。その頃には、ケンティンは静かに去ってしまっていた。アルゴンは宇宙艦隊司令部の提督に昇進し、五千歳まで延命を得た。そのうえ、彼の栄誉をたたえ、惑星アルコナスはアルゴナと改名された。

 ***

 マイカは銀河系間問題局の高官となり、その仕事に全力を尽くすことにした。引退などは全く問題外だった。年齢は一万九千歳になっていたが、彼にとってそれは単なる数字に過ぎない。何しろ、見かけも自分の感覚も『壮年期』の時と変わらないのだから。

 銀河系間問題局の行政官の仕事を止めようと決めたとき、マイカは優に二万二千歳を越えていた。ボウルダラム大学の在住教授の職を引き受けることにしたのだ。若々しく気力に満ち溢れるのを感じ、有り余ったエネルギーをいろいろなスポーツで発散した。女性に対しても新たに強い関心を抱くようになり、次から次へと情熱的な関係を持つに至り、ついには、エネルギーとカリスマに満ち満ちた魅惑的な女子学生と結婚するまでになった。そして、生物学的衝動と性衝動の深遠な側面を二人で探究した。それからずっと後になって、マイカは自然神秘主義者となっていった。妻の方は生命の力を崇拝するカルトの指導者になり、『他の世俗的な』活動の場という何かこじつけたような概念を追求した。この頃には、二人が結婚してから既に五百年が経過していた。その後、ある日のこと、カルトの『礼拝』中に、非常に不思議なことが起こった。マイカの妻が、希薄な空気の中に忽然と消えて行ってしまい、それっきり戻ってこないのだ。
 マイカは全く気が滅入ってしまい、何とか立ち直ろうとしたが、陰欝な状態が長いこと続いた。二万三千歳に達する頃になると、また前に進もうと考え始めた。連盟の議会から連絡を受けたのはそんなときだった。政府の仕事にすぐ戻るようにとの召還通知が来た。何か宇宙規模の緊急事態が発生したのだ・・・


  第四節... 『宇宙の災禍』の危機

 数世紀前に連盟と友好関係を結んでいたコルグの国境艦隊が戦線布告もせず、連盟に攻撃をかけてきた。コルグ軍とも交戦状態に陥ってるという。なにか得体のしれない狂気の発作にとりつかれたようだ。連盟は最強であり究極の兵器である『ファイヤーエンジェル』を投入する。だが敵は、それを待っていたのだった・・・。

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  登場人物

マイカ 主人公。
アルゴン マイカの友人。『ファイヤーエンジェル』の手動優先装置室に乗り込む

 

 宇宙艦隊は、敵の勢力に抵抗するため、その象限で動員可能な戦艦をすべて緊急発進させた。
 複数の開拓地が攻撃され略奪され、恒星基地が一つ破壊された。更に、連盟第二十九NV部門の世界群が一つ、完全に包囲されてしまっている。攻撃してきたのはコルグの戦艦だ。残忍で、捕虜を一人も取らず、皆殺しにしている。連盟の方が挑発したわけでもないのに、宣戦布告もせず、攻撃をしてきた。不意打ちである。隣接しているコルグ帝国はかつて敵であったが、数世紀前に締結した連盟平和条約が良く順守されてきたことを考えると、全く思いもよらぬことだ。だが、どうやら、また戦争が始まったようだ。
 そうこうするうちに、コルグ帝国司令センターから公式の連絡が来た。
 「コルグの戦艦が連盟領に侵入したのは、当局が許可したことではなく、大変遺憾である。この気違いじみた行動は不可思議な狂気の発作のせいで、コルグの国境艦隊の大部分がこの発作にかかり、国境艦隊部隊はコルグ帝国領内でも破壊行為をはたらいており、新たに到着した艦隊の部隊も同じ狂犬症候群に急速に汚染されつつある。この狂気の本質、どこからきたのか、どうやって伝播するのかは今のところ不明である。コルグ宇宙司令部は部内の狂った反逆者と戦うのに手一杯であり、コルグと連盟の艦隊部隊に対し、病気に伝染する危険を冒すよりも凶暴戦士を『発見し次第』破壊するように勧告している」
 こういう内容のコルグからの連絡は間もなく、在コルグ帝国の連盟大使館が確認し、納得した。
 だが、国境の両側ではあちこちで戦闘が行われ、第二十九NV部門内の連盟宇宙艦隊にとって情勢は急速に悪化している。増援部隊の新手を次から次と派遣しなければならなかった。遂に、宇宙艦隊司令部は超特別措置をとり、銀河系級駆逐艦機動部隊を緊急発進させ、最強兵器である超弩級戦艦『ファイヤーエンジェル』も投入することにした。この三重にシールドされた超大型宇宙船は十二の甲板を持ち、二連フェイザーと光子魚雷をそれぞれ六列搭載しており、通常型銀河系級宇宙船では究極兵器とみられているものだ。
 さらに、コルグ帝国艦隊に蔓延している奇妙な狂気感染では、心理的脅威やサイコトロニックな脅威の可能性を除外できないため、そうした危険に対する特別防衛措置として、連盟のこの超弩級戦艦の中核には、多層フォース・フィールドとサイコトロニック・シールドで遮蔽した機密室がある。そこには、独自の監視・探知装置が備えてあり、艦橋の制御装置や戦艦の機能をひとつ残らず無効にできる手動優先装置もある。
 かつて宇宙船船長を務め現在は宇宙艦隊の無任所諜報将校であるアルゴン提督がただ一人、この手動優先室に乗り込んでいる。それだけではなく、機密室にいるアルゴンはサイコトロニックとテレパシーの両面で後続の二隻の宇宙船と繋がっており、必要な場合サイキックな支援が得られるようになっている。その一隻に搭乗しているのはマスター・ヘリクシーという、実力が証明されている強力なテレパシー能力者だ。もう一隻の、つやのある『ボウルダラム』を操縦しているのが、宇宙艦隊司令部の特命を受けたマイカだ。
 包囲されている第二十九NV部門に向かう途中で受けた背景説明でマイカは知ったのだが、ケンティンもこの『宇宙の災禍対策作戦』には何らかの形で関連しているが、予備戦力なので、前面には出ていない。さて、超弩級戦艦『ファイヤーエンジェル』を始めとする宇宙艦隊機動部隊が交戦地帯深く浸透していく中、マイカはすでに、超弩級戦艦の機密室からスクランブラーを通して送られてくる全体情報をはっきりと捉えていた。マイカにとっては、まるで『ファイヤーエンジェル』に搭乗し、アルゴンがいる手動優先室に自分も一緒にいる感じだ。全体情報の他にも、アルゴンはサイコトロニックが失敗した場合の緊急バックアップとして純粋にサイキックなリンクも維持している。
 だが、ここまでのところ、超弩級戦艦が遭遇したのは、僚船から離れてしまったコルグ艦艇との散発的な小競り合いだけだ。コルグ帝国内では中央司令部が甚大な損害を被りながらもゆっくりと優位に立ちつつあることが、マイカにも分かった。それから、出し抜けに機動部隊のスクランブルがかけられた通信設備を通して、報告が続々と入ってきた。側面から敵が大挙して交戦してきたと言うのだ。
 報告されてくる戦闘行為の中心が、徐々に二十八隻の艦艇からなる機動部隊の中心に迫っていく。マイカの注意が、総合情報チャンネルから、アルゴンがいる機密室の情勢監視スクリーンヘと移る。連盟の艦艇が連続して破壊され、九隻目がバラバラに吹き飛ばされた時のアルゴンの心配そうな反応をマイカは感じ取った。アルゴンの監視スクリーンには何十隻ものコルグの駆逐艦が連盟の船団のとどめをさそうと肉薄している光景が映し出されている。フェイザーの赤い矢が宇宙の暗闇を引き裂き、連盟の艦艇に噛み付く。コルグの艦艇は連盟機動部隊の船団の周囲や味方の周囲を機動的に動き回っている。連盟の船団が散開し有利な場所に移動する。ひっきりなしに攻撃艦と交戦している。マイカは、アルゴンが超弩級戦艦の艦橋の動きを示すスクリーンと戦闘状況を示すスクリーンを見守っているのを見ている。
 その後に起こった空中戦では、敵味方双方ともに大損害を被った。今や、連盟は前よりも互角にコルグと戦っているようだ。その時、超弩級戦艦のセンサーが、四方八方から敵戦艦の新手がこちらに収敷してくることを示した。
 「全兵器配置部署に告ぐ。各部署はそれぞれ敵を一組づつ攻撃せよ」
 『ファイヤーエンジェル』の艦長が命令を発する。
 「出現点をねらえ。各部署の判断で攻撃せよ」
 とてつもなく大きな超弩級戦艦が、六基の二連フェイザーから火のような短いバーストを吐き出す。
 「フェイザーは砲撃を続けろ。魚雷発射手は光子の一斉発射を二度行え」
 と艦長が叫ぷ。そのとき、一群のコルグ艦艇が同時に発射した集中攻撃で艦橋がグラグラ揺れた。だが、三重のシールドはしっかり持ち堪えている。
 「補助兵器部署、侵攻してくる敵の魚雷に注意しろ。ただちに迎撃計算を行え。近づく前に、遠いところで迎撃せよ」
 こうして、敵の魚雷の大半は迎撃された。が、全部ではなかった。超大型の『ファイヤーエンジェル』が震える。迎撃網をくぐり抜けてきた魚雷の恐ろしい稲妻のような衝撃が超弩級戦艦の弱いところ何箇所かに命中したのだ。艦内の照明が明滅し、消え、また点いた。超弩級戦艦が横に傾ぐ。スパークがあちこちで飛ぶ。回路中継盤の二つから煙が噴き出す。左舷のシールドが一つ駄目になった。他のシールドも損害を受けた。
 だが、群れをなして襲ってきた敵艦艇の大方は破壊された。目を見張るような大きさの深紅の爆発が次々と花のように広がっていることから、それがはっきりと分かる。幾つか残ったコルグの駆逐艦は進路を変更し、退却し始めた。それを、比較的無傷の連盟の三艦艇が追跡する。戦闘は終わった。酷い殺戮だ。機能が若干低下しているが損害がそれほど酷くない艦艇は、損傷したコルグの駆逐艦の爆破作業を既に行っている。次いで、機能停止した船団の艦艇から連盟の乗組員を避難させる。
 連盟の艦艇で残ったのは超弩級戦艦ともう一隻だけだが、その二隻が、包囲されている第二十九NV部門の中心に向かって進む。宇宙艦隊司令部の指示では、既に急派されてる増員部隊と一番近いスター・ゲートで落ち合え、ということだ。いわゆる『ジーターの奈落』という領域にあるスター・ゲートだ。だが、超弩級戦艦の僚船に駆動力の問題が発生し、停止して修理する必要が生じた。そこで、『ファイヤーエンジェル』は単独で航行することになった。およそ八時間後、超弩級戦艦の前方探知機が連盟の遺棄船とそこから発信されている非常に微弱な救難信号を探知した。宇宙艦隊司含部の話だとこの辺りで最近戦闘があったそうで、『ファイヤーエンジェル』に連盟の生存乗組員を救助して良いとの許可が下った。
 超弩級戦艦がさらに近づくと、遺棄船から断続的な音声送信を受信した。
 「・・・負傷者多数・・・でなければ、動かすことができない・・・医者を送ってくれ・・・保安隊もだ・・・」
 それから、何か人間らしからぬ喚き声が聞こえ、送信が止まった。
 「これ以上何も聞こえてきません。沈黙だけです、艦長」
 超弩級戦艦の通信将校が言う。
 「どの周波数でも呼び出せません。どうも嫌な感じがします」
 「私も気にいらないが、行動せざるをえないな」
 艦長が応じる。
 「私と一等航海士、医者に看護婦長、それに古参保安隊員二人は、完全武装して生命維持装置を付け、これからビーム搬送で遺棄船に行く。一等機関士、代わって指揮をとれ。何か起きたら、我々を帰還させる準備をしておくように・・・」
 こう命合をすると艦長は、一等航海士と一緒に艦橋を離れ搬送室に向かった。
 遠くにいるところから、マイカはスクリーンに見入っている。超弩級戦艦は巨大で複雑な構造物だ。大昔に建造されたものだが、同じ級のどのような敵にもひけを取らないようにすばらしく近代化されている。マイカは搬送室の動きと、艦長以下の船内臨検班が遺棄船に『ビーム搬送』されるため非物質化されるのを見守った。それ以降、船内臨検班から入ってくるのは音声通信のみになった。ところが、今度は、この音声も送信状態が悪くな
り、言葉がとぎれとぎれにしか入ってこない。
 「・・・ほとんどが死んでる・・・下の機関部から少し生命の兆候が読み取れる・・・何だこれは、何なんだこの怪物は?……撃て、撃て……『ファイヤーエンジェル』待機せよ、今にも……」
 くぐもった爆発音、フェイザー銃の発射音、うめき声、奇妙な喚き声が聞こえてくる。それっきり、後は何も聞こえない。ザーツという雑音だけだ。
 マイカはスクリーン上で、超弩級戦艦の搬送室が活気づいてくるのを見ている。艦長が頭数を数え、無線器に向かって話す。
 「艦長から艦橋へ。船内臨検班が帰還した。保安隊員一名死亡。負傷者数名。衛生兵をよこしてくれ。一等機関士、フェイザーを全開発射、それに光子魚雷一本を発射して、遺棄船を完全に破壊しろ。繰り返す。遺棄船をただちに破壊するんだ」
 マイカの眼に、破壊エネルギーの太いビームが二本『ファイヤーエンジェル』から発射され、遺棄船をなめるように焦がすのが映る。ビームが何度も何度も遺棄船を叩く。幾つもの大きな区画が爆発して粉々に砕け飛び散る。
 「これであの地獄のような忌まわしい奴もおしまいだ」
 艦長が無線器に向かって言う。
 「『宇宙の災禍』は何らかの方法であの遺棄船に入り込んだに違いない。機関部にいた数人の生存者に取り憑き、我々を罠に誘き寄せたんだ。かわいそうに、生存者達は殺人鬼みたいだった。黄色っぼいライムグリーン色したエネルギーに包まれていた。それが鞭のようにさっと動いて我々も吸収しようとした。運よく、我々は生命維持装置のフォース・フィールドのお蔭で助かった。そして、こちらに引き揚げてもらったというわけだが、まさに危機一髪だ・・・」
 「艦長!」
 と搬送担当将校が口を挟み、何かを指し示す。
 「何かが艦長たちと一緒にビームでこちらに乗り移ってしまってます」
 一同が振り返る。形がなく、ぬるぬるした緑色の物質がプラットフォームから浮き上がり、搬送室の四方の壁に滲み込んでいくのが見える。完全に壁に吸収される前に、ぬるぬるとした緑色のエネルギーの痕跡がほんの一瞬、搬送室にいるものたちに触った。と、搬送担当将校があえぎ、床に倒れ、死んだ。だが、帰還した一行の方は、フォース・フィールドがぱっと白く輝き、何とか撃退できた。
 艦長は直ちに、搬送室を横切ってコンソールに飛びつき、艦内放送設備を使って話し始めた。
 「こちらは艦長だ。皆よく聞け。直ちに生命維持装置をつけろ。『宇宙の災禍』が搬送ビームを使い、艦内に忍び込んでしまった。形がない、ぬるぬるとした緑色のエネルギー・フィールドだ。保護装置をつけてないと、殺されてしまうぞ。艦橋、緊急非常事態警報を鳴らせ。全速前進で集合地点に向かへ。私はこれから艦橋に行く」
 マイカは、『ファイヤーエンジェル』の艦橋の状況をモニターするスクリーンに注意を向けた。艦長と一等航海士が艦橋に入ってきて、現状報告を受けているのが聞こえる。
 「乗組員の半数が、下の階をすべて一掃してしまった『宇宙の災禍』に、既に殺されました。何とか生命維持装置をつけるのが間に合った残りの半数も、強烈なエネルギーに次々とやられています。艦の自動防衛レーザーシステムが乗っ取られ、それで徐々にフォース・フィールドを貫かれて焼かれているのもいます。他にもいろいろな機能が乗っ取られてしまいました。あの『宇宙の災禍』に・・・」
 「艦長!」
 操舵手が叫び、航行コンソールを指し示し、続いてあちこちをジェスチャーで示す。
 「何かが、コンソールやコンピュータ群それに記憶装置の中を突き抜けて行ってます」
 航行、通信、資料室、機関などを司る艦橋コンピュータシステムすべての自動表示器がひとつ残らずちかちかと点滅している。どうやら、情報が物凄いスピードで処理されているようだ。
 「コンピュータ群がひとつ残らず吸収されてしまいましたよ、艦長」
 一等航海士が告げる。
 「情報をいくら吸収しても、必要なものは手に入らないさ。やつが必要としているのは操作の手足だ」
 艦長が言う。

 会話がそこで中断された。艦橋が出し抜けにライムグリーン色の光の陰に覆われてしまったのだ。そして、何かがコンピュータのスピーカーを使って喋り出した。明らかに、侵略者は言語部門も吸収してしまったようだ。合成の声でこう話してきた。
 「それは違うよ、艦長。既に操作の道具は手に入れた。お前の戦艦だ。完全にコンピュータ化された自動制御のお前の船だよ。指揮をとってるのは私だがね。この超弩級戦艦こそ、私がずっと欲しかったものだ。他の艦艇は、戦闘を始めるきっかけに過ぎなかったのだ。この戦艦を罠にかけるためにな」
 「他の艦艇は、コルグと連盟の艦艇は、すべて破壊されてしまったのか?」
 「その通り。壊滅だ。その多くは私の一部と一緒にだ。だが、私は分裂し、成長できるのだ。宿主があればな。現在、この戦艦が私の唯一の宿主だ。だが、これから艦艇と艦艇の接触を通して、沢山の宿主が手に入る。艦隊を作るんだ。一大艦隊をな!!」
 「何のためだ?目的は何なんだ?」
 艦長が質問で迫る。艦内放送設備を通して全員が聞いていることを知っていた。
 「征服するか破壊するかだ。お前達の諸世界、お前達の多数の銀河系、お前達のこの宇宙をな!」
 「しかし、そんなことは、単なる機械だけではできないぞ。自分の意思を至る所で実行するには、多数の人間を召使に使う必要が出てくる」
 「そんなことは言われなくても分かっている。だが、必要なのは頭の良い召使だけだ。だから、お前達の殆どの不要な乗組員は殺し、不可欠な人間は生かしてある」
 合成の声が事も無げに言う。
 「私の命令に従えば、報酬として、征服の暁に私の権力を分けてやる」
 「とんでもない。大部分の者は、死んだ方がましと思うさ」
 艦長はそう答えた。
 「そうだ。お前の性格からすれば、死ぬ方を選ぶだろう。才能がそんなふうに失われるのは残念だ」
 「我々を皆殺しにしたら、誰がお前の命令に従うんだ?」
 「力ずくでお前達の何人かを転向させてみるか。試しにな。この実験が成功するか失敗するか、そんなことは大して重要ではない。進んで宿主になる者がたくさん手に入るんだから。読み出しで気がつくだろうが、既に進路を変更してある。宿主の素材がたっぷりある場所に向かっている」
 「本当に進路が変更されてます!」
 一等航海士が読み出しをさっと見てそういう。
 「この進路だと、凶悪犯の刑務所コロニーに行ってしまいます」
 「そこには悪党や狂人、変質者など、私の命令に従うのにうってつけの素材がごろごろいる。一等航海士よ、すばらしい観察力だ。お前を、強制転向実験の最初の実験台にしてみるか。表情は反抗的だが、それは無視してな」
 言うまでもなく、数台設置されている艦橋防衛システム用の隠しカメラで皆がモニターされているのだ。皆が隠しカメラのレンズの方向を見上げている間に、艦長は密かに石板に何かを書きつけ、それを機関士の持ち場の方に滑らした。
 明らかに、機関士だけに見せた極秘のメモは、戦艦の自爆装置を手動で作動することと関連していたに違いない。このことは、その後の出来事ではっきりした。機関士が向きを変えて、自爆装置の回路につながる低い位置にあるパネルをはずそうとした。だが、侵略者は彼が何をしようとしているのかに気が付いたのだろう。艦橋自動防衛システムのフェイザー・ビームが天井の銃座から発射された。ビームが機関土のフォース一フィールドに衝撃を与え、蓋のない配線管の端に機関士を押えつけた。彼の生命維持装置のフォース・フィールドがピンク色に輝き、急速に強まり深紅になる。すると、フェイザーのエネルギーで過剰負荷になったフォース・フィールドが消滅してしまった。機関士は焼け焦げて死に、床に倒れた。
 「他に、この戦艦の破壊や妨害工作をしようとするものは、誰でもその場で殺す。お前もだぞ、艦長。自爆装置の作動や私の意思の妨害工作を命令したら、殺す!」
 合成した侵略者の声がスピーカーを通して響きわたる。
 フェイザー・ビームがさっと走り、艦長を隔壁に叩きつけ打ちのめす。一等航海士と保安隊員がハンド・フェイザーを引き抜き、同時に、天井の銃座に向けて撃った。無力化しようというのだろう。だが、天丼からのビームは艦長を離れ、一等航海士を襲った。第二のビームが天井から走り、保安隊員を撃つ。二人はどうしようもなぐ押え込まれたかと思うと、すぐに殺されてしまった。強力なビームが生命維持のフォース・フィールドを燃やしながら貫通したのだ。
 「一体お前は誰なんだ、悪の怪物か?」
 艦長が苛立って叫びながら、立ち上がる。
 「悪だと? そうとも。私のことを『宇宙の災禍』と呼んでるのではないのか? 地獄では、サマエル、悪魔王子といわれている。私と私の悪魔達は、お前達の存在次元で、肉体をもって何年も生きていかねばならぬのだ。だからこそ、私は一生懸命征服しようとしているのだ。何度もこの次元に到達して顕在化しようとした。最後の試みは、アルコナス・スター・ゲートからの侵入だったが、失敗してしまった。だが、今度は成功だ!!」
 「喜ぶのは早すぎるぞ、この汚らしい奴め」
 艦長があざ笑う。そう言いながら、密かに航行コンソールの読み出しを注意深く調べている。ほんの暫く前に、何かがあるいは誰かが戦艦の進路を変えてしまったようだ。向かっている方向は、もはや、刑務所コロニーではなく、最も凶暴なまでに強力な『ブラックホール』の中性子の星だ。『ジーターの奈落』の異常重力の深みに潜んでいる星に向かって進んでいるのだ。
 「誰だ、進路をいじったのは? 進路を戻せ。刑務所コロニーに向かうんだ。さもないと、中牲子の星に落ち込んでしまうぞ!」
 サマエルがスピーカーを通して叫ぶ。
 「その通りだ」
 艦長が言う。
 「衝突まで、十八分もない。自爆するのにこれ以上素晴らしい方法はない」
 兵器部署担当将校が、殺された機関士が落としたフェイザー銃を床から拾い上げる。通信将校がもう一つのフェイザー銃を手に取る。侵略者サマエルはこの動きに反応せず、ただ叫び続ける。
 「私の命令に従え! 戦艦の進路を変更するんだ」
 例の将校達は、航行コンソールと壁の棚に納まっているバックアップ・コンピュータにフェイザー銃を向け発射する。パネルが焼けて穴が開き、スパークが飛び交い、回路が焦げて燃えだし、破壊される。遅まきながら、天丼のフェイザー銃が、機能を失い未だジリジリと焦げている機器のところにいる二人の反逆将校を撃ち、焼き払う。かわいそうに、二人の体はうずくまり床に転がる。
 「何かが誰かが、システム手動優先装置を持ってこの戦艦に乗っているに違いない。どこかに隠れているはずだ」
 サマエルが気の抜けた調子で言う。
 「当たり前だ」
 艦長が答える。
 「しかもアルゴンという名前だ。かつてアルコナス・スター・ゲートでお前の計略を木っ端微塵に挫いたことがある男だ。またアルゴンにやられるぞ。サマエルよ、お前を地獄に戻して、そこから永久に出られないようにしてくれるんだ」
 「だめだ!!」
 「いーや! きっとそうなる。十五分で衝突だ」
 艦長はこう言って、自分のフェイザー銃を引き抜き、天丼の銃座目掛けて発射する。
 だが、天井からは何の反応もない。『宇宙の災禍』サマエルは消えてしまった。きっと隠されている手動優先装置を探し出しに行ったのだろう・・・
 マイカは燻る艦橋から、戦艦の中核の窮屈な手動優先装置室を映しているスクリーンに目を転じた。アルゴン提督が手動優先装置と計器類が並んでいる壁の間に挟み込まれているのがはっきり見える。アルゴンは生命維持装置を身に付け、強度フォース・フィールドで強化された天蓋の下に横たわっている。天蓋のすぐ外の一方にはパネルがあり、『自爆作動器。許可なくして触るべからず』と書かれている。パネルは叩き潰された感じで、所々腐食されたようにボロボロになっている。
 マイカが自分に注意を向けているのを感じて、アルゴン提督が天蓋の外側に設置してある広角レンズを見上げ、腐食したパネルの方をジェスチャーで示す。
 「ご覧のとおり、侵略者は時閻を無駄にしない」
 アルゴンが無線器に向かって話し出す。
 「『宇宙の災禍』はこの部屋にレーザーを持ってないし、パワーも繋がっていないが、それでも、上階の研究用備晶室で、大きなタンク一杯の酸をこぼさせたんだ。その酸が自爆作動室に滲み出し、配線やパネルなどを腐食したというわけさ。それで、自爆装置は完全にだめになってしまった」
 「いつのことだ?」
 「ほんの数秒前だ。艦橋が目茶苦茶になった直後、サマエルが隠された手動優先装置室に気が付いたときだ。きっと、聞もなく全面攻撃を開始するだろう」
 「どのくらい持ちこたえられる?」
 「独立した動力源を持ったこのコントロール設備によるシールディングがあるから、中性子の星に突っ込むまでは大丈夫だ。あと十二分で衝突する」
 「君も、戦艦もろともバラバラになってしまうぞ?」
 「『宇宙の災禍』サマエルを永久に止めるための小さな犠牲だ。他に方法はない。この低放射サイコトロニック・リンクが効かなくなったら、貴方とヘリクシーはサイキック・パワーを使って遠隔支援して欲しい。私一人では、サマエルの力に圧倒され、コントロールをもぎ取られてしまうかもしれない」
 優先室が、吐き気を催すような、強烈に輝く緑色の光に、一瞬覆われる。それから、突然、天蓋がぬるぬるしたライムグリーンのエネルギーに数秒間包まれる。フォース・フィールドが強固すぎて破れないため、エネルギーは消えた。と思ったら、天蓋の中に現れ、コンソールとアルゴンの生命維持フィールドに取りついている。サマエルは配線に沿って中に入っていったのだ。優先室全体が、勝ち誇ったように輝く、気持ちの悪くなるような緑色の光を浴びている。と、その場面が消えた。サイコトロニック・リンクが断ち切られてしまったのだ・・・
 運の尽きた超弩級戦艦からは何の映像も、何の音もマイカのところに届かない。ただ、か細いサイキックの糸を通してアルゴンの感情が伝わってくるだけだ。明らかに、サマエルはアルゴン提督のフォース・フィールド内部の生命維持装置を突き破り、今や彼のマインドに入り込もうとしている。マイカは目を閉じ、サイキックの力をアルゴンに送り込むことに専念する。静止したような、ぼんやりとした状態を通してマイカに伝わってくるのは、サマエルが触手を伸ばしてくるのに対して、アルゴンが非常に不快な気持ちを抱いていることだ。同時に、マイカは三角形の連絡網からヘリクシーの存在も感じ取った。
 マイカは片目を開けてコンソールの読み出しをちらっと見た。あと九分で『ファイヤーエンジェル』が衝突する。だが、それから二分差し引いたところで、帰還不能点に到達してしまう。つまり、物理的な力をいくら使っても、破壊的な重力の窪みの引っ張る力から戦艦を解き放つことができなくなってしまうのだ。従って、実際には目標点(つまり、帰還不能点)まであと七分ということになる。ただし、それまで、三人が力を合わせてサマエルの強烈な力を防ぐことができればのことだが。マイカの胸と頭の中では、緊張感が急激に高まっていく。マイカが一層頑張る。ヘリクシーも頑張っているのが伝わってくる。それだけではなく、サマエルの地獄のような捕まえる力がますます強烈になっていくのも感じ始める。
 目標点まであと五分ぐらいのところで、サマエルがアルゴンの最後の防衛線を切り崩してしまったのだろう。マイカは、アルゴンが声にならない叫び声を上げるのを感じる。マイカが、有らん限りの力を振り絞り、全霊を込めて力を送り込む。
 目標点まであと三分程になった。アルゴンがまた沈黙の叫び声を上げる。サマエルはもうアルゴンのマインドの中に入り込み、支配しようとしている。マイカは焼き焦がすような苦悩が自分の全存在を貫き、スタミナが物凄い勢いで消耗していくのを感じる。
 あと一分半くらいで目標点。意識が急速に薄れていく中でマイカには、アルゴンとサマエルの精神が切り離せないまでに絡み合い、死に物狂いでお互いに組みついている状態になってしまったのが分かった。マイカが最後の超人的な力を振り絞り、無線器を通して自分の宇宙船のコンピュータに嗄れ声で話し出す。
 「コンピュータよ、この最新情報を宇宙艦隊司含部に送ってくれ・・・目標点まであと一分のところで・・・アルゴンとサマエルの精神がお互いに絡み合って解けなくなってしまった・・・そのままで、彼らの墓場になる中性子の星に、『ファイヤーエンジェル』もろとも落ちていく・・・」
 何かがマイカの中でパチッと鳴った。堪え難い苦痛の波に襲われ、マイカは意識を完全に失ってしまった。後で分かったのだが、ヘリクシーは激しい反動が起きたその瞬間に絶命していた。その反動は、十中八九、超弩級戦艦が中性子の星の帰還不能線を越えたときに、三角形の精神連結が崩壊したことによるものだ・・・

    *

 こうして、『宇宙の災禍』は『ジーターの奈落』の中性子の星の中に永久に閉じ込められた。汚染されたコルグ艦隊の残りも間もなく破壊された。連盟に平和がまた戻った。

    * * *

第五節...マイカのパワーの出現

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  登場人物

マイカ 主人公。
ケンティン 第五等級宇宙促進者。マイカの友人

  

 『宇宙の災禍』のせいで引き起こされた友人の悲劇的な死に、マイカは精神的に打ちのめされていた。また、重大な問題が起きても現実的にその助けとなることができない、あるいはそうした問題が起きないようにすることもできないという自分の力不足を感じて、マイカの鬱状態はますますひどくなる。この状態から脱却しようと、マイカはボウルダラム大学神秘研究公文書館の求めに応じて、主題論文を一点、追加することにした。この新しい研究は、社会的に遅れている惑星ヴェクソンの、都会ゲットー下位文化から生まれることになっていた。この惑星は連盟の管轄外にあるため、マイカは極秘に到着して、そこの社会に解け込まなければならない。これは彼にとって比較的簡単だった。既に言語と地元の慣習は吸収タンクで注入してあったからだ。憂鬱な気持ちを紛らすため、ヴェクソンの裏社会に自らを飲み込ませ、どっぶりと浸からせた。裏社会は、貧欲と権力というこれ以上ない醜悪な狂気に捕らわれている。どういう訳だか、マイカが行ったのは非常に貧しくて汚らしい地域で、変人や奇人や極悪人など、どや街の住人みたいのがうようよいる。そこにいると、鬱状態に加えて、凶暴な『貧民世界』の波動のため、精神の麻痺に近い状態に落ち込んでしまった。マイカにとっては、それもどうでもよいことで、ただ、その日その日を無為に過ごし、全くやる気を失っていた。そうした彼にショックを与え、無気カ状態を打破させたのは、近所を恐怖に陥れているゴロツキ共だった。マイカがたまたま外を歩いていると、ゴロツキ共が人に残忍な仕打ちをしているところに出くわした。余りにも不快感を催したので、睨みつけてやると、それだけでゴロツキ共は縮み上がって乱暴をやめた。憤怒の気持ちが物凄い勢いで沸き上がり、指でチンピラの一人を指し示しただけで、そのチンピラは倒れ、苦しみのたうちまわった。それを見た残りのゴロツキ共は、こそこそ逃げ出した。マイカも非常に驚いてしまった。そんな人並みはずれたパワーが自分にあるとは思ってもいなかったのだ。
 それから数か月の問に、ゴロツキ共と同じような対決が数回あってから、マイカはどや街の正義の大擁護者となっていった。善悪問わず、自分の周囲の人問達と神秘的な心の繋がりを素早く築き上げていく。彼らの考えていることや次にどんな行動を取るのかが読めてしまうのだ。時折、簡単な内容を友好的な人達にテレパシーで伝えることすらできた。行動を心の中で描くだけで意が伝えられた。自分自身や他の人を守るために、近所の友好的な人達から武器を使った戦い方や素手の戦い方をいろいろと訓練してもらった。攻撃相手をやんわりと無力化することは別としても、物理的暴力は使う気にならないため、もっぱら防禦に頼るのを好み、ナイフはもとより必要ならば弾丸も巧みにかわした。だが、地元の悪漢どもや極悪人達が大挙して徒党を組み、マイカを殺そうとするときがきた。そのため、間もなく、マイカは身を隠したり逃げ回ったりすることになったが、それもますます難しくなっていった。
 その辺り全域が流血の戦闘地帯になった。誰しもが、ありとあらゆる手段を使って戦っているので、マイカは、こんなとこで自分は何をしているのか、と思った。あるとき、追いかけてくる群衆から命からがら逃げ出さざるを得なくなり、どうしようもなく、最後の手段として空の油用ドラム缶に潜り込むしか手がなくなってしまったことがあった。外が騒々しくなり、ドラム缶は四方八方からバンバンと叩かれ、もうこれでおしまいかと思った。すると、急に静かになった。誰かがドラム缶の蓋を開ける。マイカが目にしたのは、ニヤッと笑っているケンティンの顔だった。宇宙船内部の薄暗い船倉だった。牽引ビームでさっとさらうように救出する方法は確かにありきたりの方法ではないが、タイミングは完壁だ。ケンティンの説明だと、惑星ヴェクソンの環境は、マイカの素早い反射運動と攻撃力を始めとする色々なESP能力を引き出すという目的を果たしたので、このコンクリートジャングルから出る時が来たのだ、という。そこでマイカは考えてしまった。ヴェクソンの『環境』はむしろ、マイカのために仕掛けられたことではなかったのか。いつかケンティンに問い質してみなければ……

     *

 ケンティンはマイカを『グリンーヘルV』に連れていった。そこは未知の、人の手が触れたことのない未開惑星の熱い赤道地帯で、檸猛な野生動物がうようよしているジャングルだ。ケンティンは、そこで『極限状況で』生き延びることと順応することを学べ、と言う。そして、そこを出る時機が熟したら自力で脱出方法が分かる、とも言う。それから、マイカに別れを告げると、ケンティンのシャトルは小川の側の岩でゴツゴツした空地を離れ上昇していった。
 マイカは肩をすくめて、ケンティンが別れ際に贈ってくれた超大型の狩猟ナイフとケースを太腿に縛りつけ、それから慎重に探険を始めた。空地の小川に、いろいろな獣や捕食性動物が水を飲みに来る証拠が沢山ある。近くの川にはあらゆる種類の生物が豊富に棲息しており、互いを食べ物としている。ジャングルは虫や蛇や昆虫が沢山巣くっている。植物の大方は毒を持っているか、刺がある。生活するなら、もっとましな場所がある。ましてや、ここでは生き延びていくだけでも大変だ。細心の注意を怠らず、いつも警戒していなければならない。環境は良くない。だがマイカを常に一瞬たりとも油断しないようにさせるという意味では完壁な条件だ。マイカはにやりと笑い、順序立てて基本的な事柄に気を配り始めた。たとえば、植物を試して、予防薬や治療薬に使えるものを探したり、食べられる物を見つけたり、眠るのに安全な場所を探したりという基本的なことだ。
 結局、マイカは洪水があってもその影響を受けない高台を滝の上に見つけ、そこにしっかりとした小屋を作った。火を絶やさないようにし、『衣類』や各種の道具も作った。何年間もかけて、数え切れない位の失敗を繰り返し、病気にも何度も罹り、あちこちに怪我をし、やっとのことで満足のいくキャンプを設営し、基本的なことを自由にこなせるようになった。それからまた何年間もかけて、キャンプ地の近辺や遠くまで足を伸ばして探険したが、周囲は大体同じような環境だった。その頃には、マイカはジャングルのことに精通し、敏捷にもなり、潜んでいる危険も大体避けられるようになっていた。だが、あるときキャンプ地の近くで、一組の虎みたいな捕食性動物に挟まれてしまい、逃げ出すこともできない状態になってしまった。何とか一頭の虎を『睨みつけて』その場から逃げ出させることはできたものの、横にいたもう一頭の虎が捻りながら飛びかかってきた。それから取っ組み合いが始まり、マイカは危うく致命的な裂傷を負いそうになり、やむを得ず間一髪のところでナイフを獣の心臓に突き刺して、逃れることができた。だが、キャンプまでの一・六キロは数日をかけて苦しみながら這って戻る有様だった。その間、シダ類の葉で出血を止めようとしたが、何度か気を失ってしまった。死なずに済んだのは唯々強固な意志力のお蔭だった。また、キャンプに辿り着いてから、とって置いた薬があったから傷も治せた。その間は、溜めておいた飲み水と乾燥食の蓄えで飢えをしのいだ。
 それから何年もたって、また災難に出会った。下の川の側で巨大な蛇が飛びかかってきたのだ。大蛇はマイカに体を巻きつけて、絞め殺そうとした。マイカはありったけの精神力を呼び起こし、マインドで、大蛇が彼に対する興味を失い解き放してくれる姿を心象化した。マイカは心象化に熱中するあまり、大蛇が実際に彼を離れて川に滑り戻るのになかなか気が付かないぼどだった。

 この事件で明らかなように、ジャングルでは一瞬たりとも油断はできない。マイカは、どうしても必要な休憩を時々とるために、ぼつんと離れたところにある高い崖を選んだ。そこに登っていくのは大変だが、頂きは平らで十分な広さがある。そこなら安心して考え事をしたり瞑想に耽ることができる。と、長い間そう思っていたのだが、ある晩遅く、その幻想が粉々に砕けてしまった。崖の頂の瞑想から覚めるとびっくり仰天した。数メートル離れたところに大きなクーガーが座っているではないか。クーガーはマイカをじっと見たまま目をそらさない。マイカがいくら精神統一してそこから去らせようとしても、クーガーは動く素振りを見せない。不思議に思ったマイカは立ち上がり、クーガーに手を触れようとした。だが、そのとき、クーガーはさっと非物質化してしまった。後には、クーガーの強烈な匂いと毛が数本だけ岩のうえに残されていた。
 マイカは、この奇妙な出来事は合図ではないか、ケンティンが送ってきたメッセージなのではないのか、と思った。そこで、この惑星を去って前に進むときがきた、とマイカは考えた。だが、問題はその『方法』だ。答は翌日の夜の瞑想に現れた。それをマイカは直ちに実行に移した。ケンティンの顔をしたクーガーの体を心象化しながら、マイカは心の中でこう繰り返し続けた。『出発する用意ができた。移動手段を送って下さい』と。
 明け方近くになって、小型の自動シャトルが空から降りてきて、崖の頂きに着陸した。何十年にもわたって住んでいたジャングルを別れ際に一瞥して、マイカはナイフとバスケット一杯の薬草を持ち、シャトルに乗り込んだ。マイカは、どんな別れであれ別れは辛いものだ、ということを分かっていたので、ここでの生活はこれでおしまいときっぱり気持ちを切り替え、振り返らずに前を見よう、と心に決めていた。シャトルは、停止軌道にいる無人の宇宙船にマイカを連れていく。明らかに、ケンティンはわざわざ自ら姿を現し、マイカがしようとしていた鋭い質問に答える気なぞなかった……

      *

 マイカは、宇宙船の図書館コンピュータで静かな世界を探して、地図に載っていない砂漠の惑星『バレン・オメガ』を次の目的地に選んだ。今回マイカが望んだのは、その不毛の環境の中で、存在の核心と対決し、自分の存在のどん底に陥ってみることだ。目的地に着くと、宇宙船の自動操縦装置に、自分を降ろしたら発進地点に戻るように、との指示を出した。ナイフと薬草、水筒を数個に乾燥食、毛布を数枚、それに宇宙船の倉庫で見つけた素材を使って長持ちするように自分で作った衣類を数点持ち、シャトルで惑星の表面に降りていった。そこは、剥き出しの岩石と砂地がたくさんあり、植物が疎らにしか生えていない地域だ。だが、静寂の世界としては見込みがありそうだ。
 確かに平和だ。生物や危険もほとんど無い。だが、この厳しく人を寄せつけない土地でも、さまざまな色や雰囲気が変わり、それなりの美しさがないわけではない。気候は温帯だが、日中は熱く、夜になると寒い。暫くの間、マイカは遊動民のような生活をした。蔦類や球根植物を探してはそれを食料にしながら、住むのに適した場所も探そうとした。そうこうするうちに、適当な洞窟が岩棚の下に見つかり、それから、頼みの綱にできる小さなオアシスも近くに見つかった。そこが落ち着く場所となり、無限とも思える長い間そこに留まった。非常に原始的だが牧歌的で、リラックスした黙想生活に満足していた。
 だが、結局は、自己満足してしまうのは良くないことに気がついた。ある晩、コヨーテみたいな動物が憂鬱なセレナーデを奏でているのを聞いているうちに、ここから移動するときがきた、という合図を送ってきているのだと悟った。
 そこで、また遊動民の生活に戻り、涼しい気候の場所を探そうと北の方角に放浪をしていった。それはすぐに見つかった。不毛の山脈を奥深く、より高く入っていったのだ。そして不意に暴風雪に出くわした。そう、確かに、寒い地帯に到達したのだ。
 もっと上に行くと高原に出た。そこは草もまばらで薬草植物がところどころに生えている。後になって、やせた低木や若芽も解けていく雪の下から顔をのぞかせた。広々とした洞窟で冬ごもりをする。何年も前に大きな水筒で作った不恰好な鍋で、腹にたまるスープを作った。生活はまだ楽しく満足がいった。新居、つまり広々とした洞窟はほんの僅かしか植物が生えていない長い斜面を見下ろし、向こう側には雪を頂いた壮大な山頂がある。
 だが、非常に寒い夜は堪え難いほどだ。それも、体が慣れてしまえば大したことない。それどころか、マイカはやがて精神力を使って体温を上げることができるようにもなったのだ。数年間実験を繰り返したお蔭で、今では氷のように冷たい山の小川に浸かり体を洗い、身を切るように冷たい風で素っ裸の体を乾かすことも当たり前のようにできるようになった。その後には、凍土の上に座り、至福の瞑想に耽ることすらある。
 疑いなく、荒れ果てた極寒の環境にも拘らず、マイカはまた快適な日常生活を送り始めている。新しい季節がやって来ては去っていく。だが、マイカにとって、時の経過は意味がなくなっていた。
 そのうちに、ある日、洞窟の近くで、瞑想状態から出ると、金色をした鷲が一メートルくらい先からこちらを見ているのが目に入った。鷲の金色の両眼が瞬きもせずにじっとマイカの目を射る。マイカにはすぐ分かった。これは普通の鳥ではない。普通の出来事ではない。前進せよという合図だ。だが、今度は、どこへ行くのだ?と、その瞬間、まるでマイカの思考の流れを追うかのように、鷲は空を見上げ、そしてマイカに視線を戻した。そして、凄じくかん高い声でひと声鳴くと、さっと飛び去っていった。
 その仕草は問違えようがない、とマイカは思った。この惑星を去るべきだ……

      * * *


  第六節...銀河系XXでの使命

 連盟の最高統治機関であるガーディアン評議会から、マイカ、ケンティンらに特命が下った。ある銀河系で、わずか1世紀の間に数個の新星が発生するという激烈な物理的変化が起きている。数十億にのぼる避難民の保護と、どうやら戦闘も行われているようだ。マイカ自らガーディアン評議会と接触する。

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  登場人物

マイカ 主人公。
ケンティン 第五等級宇宙促進者。マイカの友人
アーガス サマエルとの戦いで死亡したアルゴンの生まれかわり

  

  第六節...銀河系XXでの使命(上、中)

 日没時になると、マイカは『バレン・オメガ』の洞窟から出て、何らかの移動手段が到着するのを待った。確かに、何かが来た。滑らかな、楔形の、数百メートルの長さの宇宙船が余り高くないところで出現した。マイカが子供時代を過ごした惑星に墜落した超宇宙船は、こんな恰好をしていたのではなかろうか、と思わせるものだ。
 マイカは奇妙な感じに圧倒されている。トリオクトンの結晶の近くに行くといつも感じたあの感じだ。今回は、あの奇妙な感じの後に続いて、チクチクとする感覚がある。搬送ビームが体に及ぼす影響だ。次に、マイカは宇宙船内部で物質化した。だが、ケンティンもいなければ誰もいない。非常に広々としている、ビデオスクリーンで囲まれた艦橋に立った。艦橋の隣には、床が下がったラウンジがあり、少なくとも十二人が座るのに十分な半円形の座席がある。どうもどこかで見た覚えのある場所だ。まるで……
 「お帰りなさい、マイカ」
 響きわたるような男性の声が隠れたスピーカーから聞こえてくる。
 「貴方がお乗りになったのは超宇宙船『メガマックス』号です。神秘的なオーリンクス人の幼児であった貴方を乗せて墜落した超宇宙船と同じような宇宙船です。私『メガマックス』は、貴方がおられるこことは全く異なる種類の、未知の領域のオーリンクス人に派遣されてきました。オーリンクス人は貴方のことをずっと知っていました。現在でも貴方のことを気にかけています。ずっと先の将来、いつか、貴方に訪問して貰うつもりでいます。その間、彼らはこの超宇宙船を貴方にお貸しし、これから貴方が行う非常に重要な遠征を成功させてほしいと思っているのです」
 「マイカ、私は本船のマスター・コンピュータ『マックス』です。これからケンティンとの合流地点にお連れ致します。それ以降は、遠征の間、貴方にお仕えするようにプログラムされています。貴方のオーラ・パターンに調節されていますので、貴方の音声命令だけを実行致します。私は知覚型超宇宙船で、プログラムの範囲内で完全に自律しており、モニター活動、航行、推進、修理並びに内部機能が完全自動です。後者の中には、連盟標準型情報バンク、自動医療機器、料理の仕出しサービスなどが含まれています。私の動力源は塔載してあるトリオクトン結晶です。超光速での最高スピードは一万C。宇宙船の胴体はニュートロン結合です。これは、ディフレクター・シールドの完全配列に加えての保障措置です。本船の火力は、連盟の超駆逐艦級戦艦の二十倍となっています」
 「センサー、通信装置はどうなっている?」
 マイカが質問する。
 「本船には連盟標準型装置が設備されています。しかし、エコー型センサーやパルス送信は使わないほうが賢明です。そのほうが探知されにくいです。ですから、静かな航行モード使いましょう。もちろん、私の『非排気依存型』ウルトラ・スキャンは別です。これを使えば、数光年の距離内の長距離スキャニングができます」
 マックスがそう説明する。
 「連盟の一番凄いやつよりもずつと優秀だ。超宇宙船と呼ばれるのも不思議ではない」マイカが感慨を込めて言う。
 「ところで、この超宇宙船の運行に私は口を出していいのかな?」
 「もちろん、当然です。意思決定と命令は貴方が行います。私が自動的に動かしますがそれは効率と正確さを期すためで、状況は逐一ご報告致します。それに、最後の決断はいつも貴方がなさいます。貴方には手動優先装置がありますので」
 マイカは船内を歩き回つた。ただ単に時間潰しではなく、本当の好奇心からあちこちを調べてみた。超宇宙船の十分な装備と最適なレイアウトに感心した。いろいろなところを見て廻った。レクレーション区域や自動修理区画も覗いた。若返り室兼病室は自動医療機器が備わつており、殆どすべての既知のヒ一-マノイドや多くの非ヒューマノイド生物体にも対応できるようになっている。加工工場、部品・資材倉庫、その他各種の機材、さらには各種の船外活動が必要な場合を想定して小型の偵察円盤や地上高速移動車もある。だが、どこへ行こうとも、宇宙船の船内センサーがマイカの動きを追い、マックスの音声反応がすぐに帰ってくる。
 「何から何まで、細部に至るまで、全く完壁のようだ」
 マイカが大声で言う。
 「この超宇宙船が建造されたのはいつごろだろう?」
 「マイカ、貴方の現在の肉体よりもずっと以前ですよ。私のような超宇宙船は十万年くらいもつように建造されています。建造以来、設計を変えたり、必要なものは何でも装備したりし続けています。もちろん、小規模の改良で、大半は、各種の条件やいろいろなお客の希望に合わせるためです」
 「何か、豪華なヨットの船長のようだな……」
 「全くその通りです。事実、私は十分な自覚を持った船長兼ヨット自体ということで、つまり、その二つを兼ねているんです。平均的な自動タクシーより一桁上を行く、どちらかというと重役用の宇宙リモジンみたいなものです。恒久的に内蔵された運転手がついていて、一時に百人を収容できます。非常に華やかな興味の尽きない人生ですよ」
 「それは良かったな、マックス。私からチップを期待してはいないだろうな」
 「とんでもありません。貴方は裕福なお人には見えません。その野蛮人のような恰好ではね。気を悪くしないで下さい、マイカ、悪気で言ったのではありませんから。ついでに申し上げますと、化粧室兼衣装室をお使いになったら如何でしょう。可愛らしいアンドロイドのスチュワーデスニ人にお世話をさせます。その間に私は、お好みの素晴らしいタ食を用意して、艦橋の側のVIPラウンジで召し上って頂くようにしましょうL
 マイカは提案に従った。菜食主義者用の食事に、沢山の果物と各種のジュースを添えてもらうことにした。すべて有機栽培で、宇宙船の中央にある水耕培室からとってきたばかりのものだ。さっぱりとし、新しい服に着替えたマイカは、可愛らしくてお喋り好きの二人のスチュワーデスに、長い間行方が知れなかった友人に再会したかのような待遇を受けた。食事が終わりに近づく頃になって、マックスの声が静かに割り込んできた。ウルトラ・スキャンのスクリーンのひとつに映し出されたブリップにマイカの注意を促す。
 「『ジーターの奈落』の合流地点に接近中。あと二十分で到着予定です。ブリップは待機中のケンティンの宇宙船のようです。マイカ、彼だということをテレパシーで確認して頂けますか」
 『ジーターの奈落』!『大昔の』いろいろな記憶がマイカの心に押し寄せてきた。サマエルとの戦い。アルゴンをあの中性子の星との衝突で失った辛い苦痛。だが、今は、アルゴンがまだ肉体をもって元気に生きているかのように感じる!マイカは目を閉じたがマインドを開けて受信モードにする。そして、一分後、口を開いた。
 「確かにケンティンだ。どういう訳か『アンク十字(生命の象徴)』のお守りを示している」
 「結構です」
 マックが答える。
 「あのお守りは、暗号の確認をするためです。すべてOKです。前進します。間もなく貴方はケンティンの宇宙船に移動します。でも、私は近くに待機していて、貴方のご帰還を待ちます。貴方のお仕事がどれくらい長くかかろうともです」
 数分内に、『メガ・マックス』はケンティンの宇宙船の位置をっかみ、マイカがビームで搬送される。奇妙なまでに不透明な宇宙船の中で、マイカが物質化すると、その真正面に体にぴったりとした衣服を着たケンティンがいる。

 *

 「宇宙船『スペクター』にようこそ、我が友よ。久し振りだな」
 こう言ってケンティンがマイカを暖かく抱きかかえる。
 「貴方がいろいろな動物に変身して訪ねて来てくれたことを別にすればね」
 とマイカが応じる。
 「あのような状況ではああするのが相応しいと思えたんだ。とにかく、すべてはうまくいった」そう言ってから、ケンティンは奥の小部屋から出てきた人間の姿の方を示す。
 「さて、紹介しよう」
 マイカは入ってきた男の風貌に驚愕して、面食らった。
 「君は……君はアルゴンに似ているい大昔に失った友人のアルゴンに!」
 「それもそのはずです」
 男が口を開く。
 「私はあのアルゴンだったのですから。また戻ってきました、つまり、生まれ変わったのです。今度はアーガスという名前でです」
 驚きの余り非常に動揺してしまったマイカは、座り込んでしまった。ケンティンが飲み物を出して、新しくやって来たアーガスの話をマイカに語り始める。
 あの『ファイヤーエンジェル』が劇的な形で中性子の星に衝突してから千年ほど経ったころ、『暗黒の勢力』はサマエルを引っ張り出して自由にした。昏睡状態にあるアルゴンが精神力で続けていた死のグリップから解き放ったのだ。一方、ガーディアン達はアルゴンの精神を首尾よく奪取して癒し、以前とそっくりの肉体に生まれ変わらせた。そういうわけで、アーガスは、地球軌道にあった宇宙船(連盟に属する遠くの系の惑星アンクに登録されている宇宙巡洋艦級宇宙船)で現在の肉体に生まれた。両親は『神』のような艦長と東地中海地域出身の『この世の』地球人女性だ。アーガスは地球で育ったが、二十一歳になると惑星アンクに行き高等教育を受けた。
 スペース・アカデミーを卒業するとすぐ、連盟宇宙艦隊のサイキアン部門に入った。数世紀にわたり宇宙船の艦長としてさまざまな任務を務めたアーガスは、主体性が非常に強いが連盟にとっては友好的な隣国であるコルグ帝国との連絡担当官に任命された。コルグ帝国は、アーガスが前世で英雄的行為を成していたことと現世でも優れた実績を挙げていることを十分認識していたので、その彼を連絡担当官にと要請したのだ。コルグ帝国はアーガスに自国の宇宙艦隊全般について習熟させ、現場研修も行った。これは連盟との交流計画の一環であった。
 アーガスにとっての圧巻はあの伝説的な生体船『スターフィッシュ(ひとで)』号に搭乗しての艦長職研修航行であったが、その航行は、市場性の高い花粉が豊富にある銀河縁の世界を去ろうとしているとき、急に中止になってしまった。その惑星でのアーガスの短期間の保養休暇は、首に埋め込まれた無線装置で生体船から受信した総合警報でおしまいになった。そこでアーガスは、高性能ホバーカーで宇宙港へと疾走した。
 ひとでの形をした怪物のような宇宙船が、停泊場所にうずくまっている。その五本の腕は伸び広がり、乗組員や貨物の移動を容易にしている。『スターフィッシュ』は二分間で円盤型になることができ、大気圏内を長時間飛行する場合は針の形になることもできる。形を変えるときに、乗組員が通路や船室で押し潰されてしまうという危険は全くない。隔壁のセンサーがどのくらい余裕をみるべきかを探知するからだ。艦長か艦長代理(の執行命令に宇宙船は従うよう調整されているので、その二人)のどちらかが暗号を言って抑制措置を覆す場合しか、宇宙船の形の変化は行動を抑制したり有害とならない。
 アーガスが『スターフィッシュ』に向かって急行する。オレンジ色っぽい赤い光を吐き出し、エネルギーを充満させ、すぐにも出発できる態勢を取っている。宇宙船に開口部ができアーガスを迎える。彼はホバーカーを運転したままその開口部に入っていき、ブレーキを強く踏む。開口部の入り口が切り傷が治っていくような感じで閉じる。『スターフィッシュ』の噴射口からエネルギーが真っ赤になって噴射される。磁場がクッションとなって、身が振られるような一瞬のうちの離陸と何千キロのジャンプのショックから、アーガスを護る。抗生物質のガスがシューツという音を立てて開口部に流入し、続いて酸と液体の高圧スプレーがかけられ、ホバーカーを殺菌する。汚染除去作業の仕上げは紫外線放射処理だ。ハッチが開き、アーガスが曲線を描く通路に出てくる。床は弾力性があり、壁は肉のような色だ。従来型の宇宙船で金属とプラスチックが使われているところは、この宇宙船ではプロトプラズムが使われ、ケーブルは神経に取って代わられ、コンピュータの代わりは頭脳だ。通路の両側には一枚おきに形が異なる輝く板が嵌め込まれている。この板がビデオスクリーンやセンサーとなる。生体エンジニアーが精神検示器を隔壁に当てているところを通り越し、アーガスは瞳のように開く虹彩扉を通って灰色の円盤に乗る。円盤は彼を乗せて上がっていく。皮膚に埋め込まれた無線器に向かって「艦橋へ」と指示をする。すると、周囲の隔壁が丸くなってシャフトになり、その中を円盤が上昇していく。そして今度は、シャフトが頭上で曲がり、曲線を描く通路となる。その先端で、アーガスは円盤を降りる。虹彩扉を通っていくと、そこが広い艦橋だ。士官達が既にそれぞれの部署について座っている。
 アーガスは高くなった三日月形の場所の中央にある艦長の席を占めた。
 「外部の画像と座標を」
 とアーガスが完壁なコルグ語で命令を発する。
 複数のスクリーンがパッとつき、的確な画像と、読み出し、予測を映し出す。
 だが、そのとき、新たに艦橋に到着した者がそこにいた人達の注意をそいだ。コルグ帝国皇帝の特使だ。威風堂々と入ってきて艦橋の中央に陣どった。二台のビデオスクリーンが帝国の象徴と確認用の表意文字を鮮やかに描きだす。
 「こんなに慌てて離陸したことをお詫びする」
 と特使が話し始める。
 「皇帝の最高機密命令、非常に緊急を要する命令を伝える。我々は最高速度で『ジーターの奈落』に急行し、宇宙促進者ケンティンの超宇宙船『スペクター』と合流する。そこで、我々の尊敬する研修中の艦長アーガスは『スペクター』に乗り移り、遠くで開かれる会議に輸送される。宇宙全体にとって極めて重要な合同遠征についての会議だ。アーガスが『スターフィッシュ』に戻るまで、我々は移転区域で待機する」
 それから半日経ち、『スターフィッシュ』は『ジーターの奈落』の象限で超宇宙船『スペクター』を捉えた。暗号によみ相互確認を行い、双方のスピードを合わせると、アーガスが艦橋から非物質化した。ケンティンに会うため、ビーム搬送で『スペクター』に乗り移ったのだ……

 *

 「中性子の星と衝突したのは千年以上も前のことだというが」
 とマイカがアーガスに語りかける。
 「どうも私にはほんの一、二世紀前のようにしか思えない」
 「その主観的な時間感覚は間違ってはいない」
 ケンティンがマイカに教える。
 「しかし、『バレン・アルファ』はたまたまタイムワープを通過してしまったから、君は千年以上も『失ってしまった』のだ。それにしても、君はまだまだ若いな……」
 「ええ、およそ二万四千歳の『若さ』ですよ」
 「まだ壮年というわけだ。これから更に一万二千年くらいはもちそうだな。それに、いま向かっているところでは、年齢も肉体性や物質性も重要ではない」
 「というと、どこへ行くんですか?これから始まる大遠征というのは何ですか?」
 とアーガスが尋ねる。
 「『ガーディアン評議会』に謁見するのだ。この宇宙船『スペクター』は、ガーディアン達の領域に我々を迅速に、直接輸送できる唯一の宇宙船なんだ。『スペクター』は、超次元モードの場合、数百万Cのスピードで航行できる。私の他に、君達二人もこのような旅をする資格があるんだ。そうでなければ、『スペクター』はビーム搬送で君達を乗船させたりはしないさ。だが、まず、君達の体の分子構造を若干変えなければならないが、そのプロセスは乗船した瞬間から既に始まっている。分子構造の変換が完了ししだい、本船は超モード航行に移り、ガーディアン達の領域に向かう」
 「『スペクター』は『大カオス(混沌)の障壁』の航行不可能な数々のワープや嵐を超次元的にバイパスすることができる。そこを越えたら、『目』という移行領域内部で普通の宇宙空間にポンと戻ることができるのだ。そこで、私達は『黒い渦巻き』に入り、そこの底部で『スペクター』を去らねばならない。というのは、如何にこの宇宙船が複次元用であるとはいえ、時空と物質を超越した領域に飛び込むことはできないからだ。そのような領域にガーディアン達は肉体のない状態で住んでおられる」
 「では、私達はどうやって通過していくんですか?」
 「分子構造の変換で私達の本質は既に変態している。境界に着いたら、ガーディアン達が私達を迎えに送るエーテル体のダイヤモンド船に乗り移る。そのエーテル船が謁見場所に連れていってくれるのだ。私達が担当する特命事項のブリーフィングもあると思う」
 「遠征、特命事項?一体何ですか、それは?」
 「実際には『銀河系XXでの使命』と呼ばれるが、その概略をいま話しておこう」
 こう言ってケンティンが説明を始める。
 ことの発端は警戒心を起こさせる報告だった。ある天体物理観測所の(光速より一億倍速い)メガタキオン・スキャンが、連盟圏外の非常に遠い銀河系に激烈な物理的変化が起きている兆候を捉えたという報告だ。銀河系の腕のような地域で、遠く離れた複数の星が新星になっている。それも、一世紀の間に数個という驚くべき率でだ。宇宙の荒廃をもたらすウィルスのようなものが既にその地域の星座をひとつ破滅させてしまっていたが、あたかもそれがこの『XXゼロ』と名付けられた銀河系の別の部分をも侵食してるようだ。第五等級代理人のケンティンが調査のため急派された。彼は、荒廃した部門は宇宙の激しい嵐や殺傷力のある放射線で絶えず変動する騒然たる状況になっており、住むことも航行することも全くできなくなっている、との報告を送った。更に、『XXゼロ』の嘗ては強大だったスカンゼンリーグ諸世界文明の膨大な数の生き残りヒューマノイド達が避難をしている。複数の巨大な宇宙船船団が何十億人もの冬眠ヒューマノイドを乗せて、破壊の道から物凄いスピードで避難中なのだ。その百Cという超速は物凄いスピードではあるが、銀河系間の深淵を横断するには不十分だ。技術面の機能が完壁であり、人工冬眠装置が安定していても、広がりつつある宇宙荒廃から数銀河系の先まで逃げるには、まだ数千年もかかってしまう。
 連盟当局だけでなくガーディアン評議会も、深い懸念を抱いた。そこで評議会は、宇宙荒廃の拡散を停止させよ、との命令を下した。明らかに、そこの宇宙全体にとって脅威となっているからだ。評議会としては、『XXゼロ』の膨大な数の避難者を助けたいとも思っている。連盟第三十二DR部門の近くにある大部分が無人の銀河系へ移動させ、そこを植民して新たな故郷とするのを援助しようというのだ。従って、評議会は異例措置の実施を命令した。その第一は、一連の『銀河系問ゲート』を一時的に創出して、『銀河系XXゼロ』から何億光年も離れた再定住予定地の『XX33』と新たに名付けられた銀河系までの橋渡しとする。第二に、宇宙艦隊戦艦の分遣隊を急派し、新たに創出した『ゲート』を防衛し、避難民を乗せた船団を護衛する。第三に、三隻の超宇宙船からなる特殊チームを早急に急派し、『銀河系問ゲート』創出任務と、更に念の為に防衛任務にも就かせる。この最後に挙げた任務は、ひょっとしたら『暗黒の勢力』の卑劣な企みがこの謎に包まれた宇宙荒廃の背後にあるのではないか、と評議会が疑っているからだ。
 特殊チームの最初の超宇宙船はかなりユニークな、生きている生体船『スターフィッシュ』となるはずで、友好的なコルグ帝国がガーディアン達の要請に従い、この使命用に寄贈したばかりの宇宙船だ。『スターフィッシュ』は強力な火力を持つ兵器を搭載し、(宇宙艦隊の他の艦艇より数倍速い)最高巡航速度一千Cという優れた機動性を持ち、何十人もの多才な将校からなる有能な乗組員と一群の科学者を乗船させている。そして、指揮はアーガス自身が取っている。生体船は避難民の船団を密かに追尾して見守り、必要なら彼らの防衛要塞艦も支援することになっている。
 第二の超宇宙船はボウルダラム大学が寄贈した『メガマックス』で、極めて高感度の知覚型船だ。機動性と多才さの点では『スターフィッシュ』よりも優れ、最高巡航速度は一万C。乗り組んでいるのはマイカ唯一人で、搭載している目覚型スーパーコンピュータ・ネットワークを通して操縦する。この知覚型船は、何か手の込んだ問題が生じた場合の補助追尾用だ。
 第三の超宇宙船が『スペクター』だ。ガーディアン達が特に緊急作戦用に創出したもので、緊急事態が続いている期間だけ貸し出された。『スペクター』は超次元の『亡霊船』で、何億Cという巡航速度で信じられないほどの機動性を持ち、ケンティンが一人で操縦している。この亡霊船を構成しているのは複次元エネルギー場で、物質ではない。ただ、ケンティンや友人達が手で触れると、船体は冷たく、固体の感じがする。そうではあっても、この宇宙船は、さまざまなストレスに対処するため、いろいろな種類や強度のフォース・フィールドで構成されている。時空領域と超次元宇宙空間を出入りする(つまり、次元間移動の)際には、非常に大きなストレスがかかる。『スペクター』に乗り超モードで航行する時、ケンティンは精神の本質だけを使い、船と連結して想念指令操縦する。というより、操縦を行うのはケンティンのマインドの本質と宇宙船の『マインド』との連結というべきか。ケンティンが意思と方向を担当し、宇宙船が実際の操縦を行うのだ。
 以上三隻の超宇宙船は、敵かもしれないものに探知されるのを避けるため、標準型のコムリンクや送信もスキャニング・モードも使わないことになっている。その代わり、船体場の外の極微弱『表面下』放射物でスクランブルしたサイコトロニク『送受』でコムリンクされている。

 現状についての全般的な背景説明を終え、ケンティンは立ち上がり、艦橋の後部を指し示した。
 「君達二人は後部に隣接している小部屋に行って、着ているものを全部脱ぎ、そこに準備してある、体にぴったりとした、電気の火花のような青色の『ウルトラ・スキン』を着て、それから、私の隣の、平衡場で確保されている体型にあった容器に仰向けになるように。間もなくしたら、出発する。あとはすべて自動的に行われる。最終的にここに戻ってくることも、待機中の宇宙船に君達がビーム搬送で帰ることもだ」
 事実、間もなく出発となった。『スペクター』は目も眩むようなウルトラドライブに入った。前方の星は輝いて紫外線となり、後方の星は霞んで赤外線になる。それから、何もかもがぼやける。大分経ってから、宇宙船は通常の宇宙空間の遠近風景にぱっと戻った。周囲では遠くの方で電気嵐が怒り狂っている。その中心の静かなところにいるのだ。明らかに、移行区域の『目』の中にいる。ケンティンが先に説明していた通りだ。前方には恐ろしいまでに真っ暗な『黒い渦巻き』が睨んでいる。その中へ『スペクター』が今度はゆっくりとした推進スピードで飛び込んでいく。後方では『大混沌の障壁』の無数の怒り狂う花火が依然として踊り続けている。だが、間もなくあらゆるものが黒色より黒くなり、時と動きの感覚がすべて停止してしまった。
 そのうち、何かが近くで明滅する。微かにダイヤモンドの輪郭が見える。三人を輸送するエーテル船だ。そこに向かって三人は、今度は、自由に浮動していく。彼らが中に入ると、エーテル船は出発した。周囲はますます明るくなり、若干色彩もついてきた。やがて風景や山々の上を飛ぶ。空には散光が満ちているが太陽はない。ダイヤモンド型のエーテル船は、ますます増加していく何キロにもわたる高い頂の上空を急上昇していき、さまざまに光り輝く色をしたいろいろな空域を横切っていく。やっと、ダイヤモンド型エーテル船は、着陸態勢をとり始めた。何キロにもわたる高い頂きの上に聳え立つ一番高い峰だ。今度は、息をのむような周囲の展望が消えた。ダイヤモンド型エーテル船が高峰の頂上に着陸したのだ。着陸したのは頂上というより、その中にある幅の広いクレータみたいな窪地で、周囲は鋸の歯のように尖った岩で囲まれている。三人を乗せたまま、エーテル船はスタジアムみたいな場所の中央に停止したまま動かない。まるで、何かが起こるのを待っているようだ。これまでピンク色だった光がゆっくりと霞み、紫色の薄闇に変わる。
 すると、巨大な嵐のような雲がひとつ、この自然のアリーナの上空に浮かび、目も覚めるようなとりどりの色の閃光を放ちながら渦巻いた。その雲から、色のついた光の点が数十、編隊のように飛び出し、アリーナに舞い降りて来る。それがすぐに物質化し、さまざまな色の光り輝く卵形の光となる。その卵形の形状のものが、今度は、周囲の鋸の歯のように尖った岩のてっぺんに歩哨のように立った。
 「ガーディアンのお出ましだ。五十人全部がいらしてる」
 三人の男に聞こえてきた。というより、心の中で即座に悟った。この高遠な『光の存在達』、つまりあの偉大なガーディアン評議会は眩いばかりの色を放ち、優しく輝き脈動しながら、精神通信を始めた。
 「評議会の意思を代行する勇敢な促進者達よ、私達の住居にようこそ。ここに来てもらったのは、大いに緊急を要する宇宙規模の問題についてだ。ケンティンからすでに聞いていると思うが、『銀河系XXでの使命』、つまり、宇宙荒廃の蔓延を阻止し、『銀河系XXゼロ』からの避難民の大集団を救出し再定住させることが任務だ。これには連盟とコルグ帝国の全面的な協力が得られることになっている。その統治機関は作戦の詳細について完全に同意している。君達三人はそれぞれが超宇宙船を一隻この作戦期間中だけ一時使用できるが、それは先鋒となりかつ先頭にたってこの作戦を保護するためだ。宇宙艦隊の戦闘艦艇分遣隊も支援・増強をする。君達三人の促進者はこの任務については最も有効かつ適任だ。これは私達にしてみれば、君達がチームを組んで任務を遂行できるかどうかを試してみるという目的もある。将来、共同作戦を行ってもらうためだ。三人ががっしりと手を組んで強力に結びついているということは、すでに何千年も前から継続している」
 「君達三人が心的・精神的な絆を持ちチームとして機能することは、関係者すべてにとって恩恵となる。この『銀河系XXでの使命』が完了したら、君達三人は遠くの惑星の面倒を見るという任務を共同してだが別個に与えられる。その惑星とは地球だ。君達は今後七千年くらい、地球に住み地球人に囲まれて生きていくことになる。その間、教育・指導を行い、最終的にはこの素晴らしい宝石になることを希望している地球世界を、宇宙同胞愛の『新時代』へと迎い入れるのだ。この惑星地球は宇宙にとって重要な意義ある役割を果すよう運命づけられている。そのため、君達、最も資格のある使節・促進者のチームが世話をしなければならない。更に、覚えておいてほしいが、私達はあれこれと君達に指図しているのではない。君達は『光』のために働くことを、千古の昔に志願したのだ。従って、私達の意思は君達の意思でもある。現実には、君達は私達から出ている。私達は皆、同じチームに属しているのだ」
 「さて、お別れの時がきた。君達に愛と祝福を贈る。間もなく、永く続く強烈な至福の波を経験する。その後、君達は大きなエネルギーに充満され再生される。目が覚めるころには、待機中の『スペクター』にそろそろ搭乗する時だ。そして『銀河系XXでの使命』が始まる……」

 *

 三人はそれぞれの超宇宙船に戻った。
 『スペクター』が全く独自のウルトラ・モードで先を航行していく。何百万C(光速)というスピードだ。
 『銀河系間ゲート』に使えそうな宇宙空間の異常を見つける役目だ。『メガマックス』がその後に続き、必要な予備計算を一手に引き受けている。一方、『スターフィッシュ』は特異点ジェネレーターで適切な物理的変化を起こし、ゲートを実現する。それから、モルモット役の無人探測機が発射され、それを物質的に不死身の『スペクター』が追尾する。もしゲートが大丈夫なら、『スペクター』は無人探測機を送り返す。それを確認の合図として、『メガマックス』と『スターフィッシュ』が宇宙艦隊艦艇と一緒に通過していく。ただ、艦艇の一隻は後に残り、新しくできたゲートを防衛する任務に就く。このようにして、二十位の『バイパス』長距離跳躍で銀河系群を通過し、機動部隊は『銀河系XXゼロ』に一年もかからずに到着することができた。機動部隊は接近してくる避難民船団の通り道に計算通りポンと飛び出た。そこは、最後に作ったゲートから船団の航行時間では七日分の距離だ。『メガマックス』は後に暫く残り、ゲートの最終的な確保と配列を確かめ、避難民船団のすぐ近くにいるスピードの遅い『スターフィッシュ』に数時間後に追いついた。そのずっと前、『スペクター』がそこに急行するのにはたった数秒しかかからなかった。その近くに来ると、ケンティンは『スペクター』を船団の位置を中心に幅広くぐるぐると航行させ、敵がいないかどうかを調べる。
 敵はたくさんいた。
 異星の戦艦が無数の編隊となって避難民船団に収斂してきている。先頭に立つ一、二の編隊はすでに船団の防衛要塞艦と戦闘を始めている。重戦艦が死をもたらす破壊的な魚雷や粒子ビームを交わす中、深宇宙の暗黒のあちこちが突発的にパッと燃え上がる。軽迎撃艦が巨大な戦艦の問を縦横に飛び交い、接近しては弱点を捜し出そうとする。そうしながらも、同時に、空中戦をあちこちで行っている。攻撃側と防御側のそれぞれのテクノロジーと艦艇の設計は若干異なってはいるものの、両者のカは互角のようだ。損害もそれぞれ同じ様に増えている。だが、両者ともに、最後には目分のほうが勝つという自信を持っている。防御側は秘密の切り札が救援に来ると思っているし、他方、攻撃側は増援部隊が来ると考えているからだ。この自信は、ケンティンが戦闘員の何人かに焦点を合わせて、彼らの言葉にならぬ心の内を読み取って得た感触だ。
 防御にあたっているものと船団の人々は、すべてがヒューマノイドで、ある程度の変種はいるが、圧倒的に『ホモサピエンス』型だ。脱出を図っているこの艦隊は百隻の鈍重な『人工冬眠装置』船からなり、各船には何千年もの長期の脱出航海に出た百億人の冬眠者が乗船している。今攻撃されているこの船団は、同じ様な十の船団からなる編隊のたまたま先頭に立っている船団だ。各船団は数光年の間隔をおいて航行しており、それぞれが十隻の『人工冬眠装置』船を擁している。したがって、この巨大な移住艦隊は総計一兆人の冬眠者を輸送していることになる。彼らは、スカンゼンリーグの数百の不運な世界から選り抜かれた避難民なのだ。
 攻撃を受けているこの先頭船団の防衛部隊は、秘密の切り札、つまり、超超弩級巨大戦艦『プロテクター』の到着を今や遅しと待っている。と、まさにその『プロテクター』が戦闘場面に忽然とその全容を現した。そして、物凄いエネルギーの稲妻を精密照準で発射し、押し寄せる攻撃艦艇を消滅させていく。『プロテクター』は同時に何列ものフェイザーの様な砲からも発射し続け、宇宙空間のあちこちで攻撃艦艇を爆発させる。
 そのうちに、膨大な数の攻撃増援戦艦部隊が何編隊にもなって収敏してきて、防衛部隊に攻撃を始める。突然、ケンティンはなぜ攻撃側の思考プロセスがこんなに諾み取りにくいのかに気がついた。彼らは人間でもなければ異質の生物形態でもない。単なるオートマトン、合成『頭脳』を持ったアンドロイドの複製に過ぎず、遠隔指含を受けるセンサー・レセプターであって、受けた指令を実行するだけなのだ。攻撃艦艇は船団の進行方向のずっと先にある濃密度の星群の方から来ている。スカンゼンリーグの避難者達は、攻撃しているのはその星群の住人達で、船団が彼らの故郷世界を侵略しようとしていると誤解しているのだ、と思っている。だが、ケンティンには、はっきりと分かっている。人間の方が誤解しているのだ。攻撃しているのは、あの星群の『住人』ではない。そこに基地を置いているに過ぎないのだ。ケンティンが星群をさっと調べてみると、本来の住人達の諸世界は人口が少なく、かつては高度に発達した恒星間文明を持っていたのだが、今ではその廃墟の中で原始的な状況で生活していることが分かつた。何人かの住人の心の中を表面的ではあるが探ってみて集めた情報からケンティンが判断するところでは、ロボットの侵入者こそが星群に前哨地点を確保するためにそこの文明を破壊したのであった。攻撃してきたロボット達の背後にいる黒幕が誰かを探ろうとしてケンティンに分かったのは、星群の前哨地点には中継センターしかなく、実際に遠隔操作しているものは、近づき難いほど遠くのどこかにいるということであった。
 さて、船団の戦闘場面では、膨大な数の侵略増援部隊が超超弩級戦艦『プロテクター』を取り囲み、組織的に少しずつばらばらに破壊している。ケンティンとしては、包囲されている人間達に同情はするものの、何も手出しはできない。ただ、現場に急行してくる僚艦の『スターフィッシュ』と『メガマックス』に情報を伝えるだけだ。彼の宇宙船『スペクター』自体には攻撃能力がないのだ。
 超超弩級戦艦『プロテクター』が華々しい最期を遂げる。それでも、数の上では非常に分が悪い船団防衛部隊は、望みがなくなった様に思えるこの段階でも勇敢に戦い続ける。そのときだ。『メガマックス』と『スターフィッシュ』が忽然と姿を現した。砲が閃光を放ち灼熱の光線が発射され、侵略側の大群を忘却の彼方に吹き飛ばす。大いに安堵したが当惑もした船団防衛部隊が声援を送る。そして、この破壊的な戦闘が終わるか終わらないうちに、船団司令部があらゆる周波数を使い多数の言語で、矢継ぎ早に『説明要請』を解放者に送ってくる。
 『スターフィッシュ』が、搭載している万能翻訳機を通し、船団標準言語で答える。
 「こちらは機動部隊超宇宙船『スターフィッシュ』です。私達は遠くの人間界から救急ミッションで派遣されてきました。皆さんの避難民船団の全艦隊を救助し、新しい故郷世界へ移住するのを援助するためです。五十人の代表団を早急に『スターフィッシュ』に送って下さい。もっと細かな説明と、必要なお話をしますので。その間、完全警戒態勢を解かずに、編成をし直し、防衛体制を増強して下さい。私達の僚艦『メガマックス』が遠くの外辺部へ後退して、これ以上侵入されないように護衛します」
 ケンティンは、周囲を徹底的に調べ、当座は新たな攻撃の恐れはないと確信した。そこで彼は、例の星群に急行し、攻撃してきたものたちの中継センターを綿密に調べることにした。多数の星系が攻撃者の基地に占拠されていて、宇宙船の数は何千にもなることが分かった。さらに、星群の他の場所には多数の予備中継センターがあり、すべてがリンクされていて、どれかひとつのセンターが機能しなくなったら相互に補完できるようになっていることも判明した。どのセンターも、超高速の探知されにくいタキオン・ビームが供給されている。供給源はひとつで、星群からずっと離れたところだ。ケンティンは数光日離れた供給源に急いで移動する。ある暗黒星雲の近くの、黒くなった岩からなる月ほどの大きさの塊で、何の変哲もなく無害な感じだ。明らかに、その塊は主要中継基地がある場所だ。黒くなった岩の奥深く百六十キロ入ったところに、指示を出す人工知能が隠されているのをケンティンは感じ取った。その人工知能は、もっとずっと遠くから送られてくる物理的に探知不可能な超タキオン・ビームで遠隔操作されているのだ。
 ケンティンはサイコトロニック・リンクでマイカに状況を報告する。『メガマックス』に座標を知らせて、特異点ジェネレーターを数基持って来るように要請する。それで、岩に埋め込まれている主要中継基地を破壊するのだ。彼が『メガマックス』に指示した内容は、岩塊から最低百六十万キロ離れた地点を通り、そこから、光子魚雷の背に二基の特異点ジェネレーターを搭載して岩塊の中央部にある深い亀裂に撃ち込む、ということだ。光子魚雷が発射される。それから、『スペクター』と『メガマックス』の二隻の超宇宙船による連繋誘導で、死の魚雷が目標点に到達するのに、微妙な進路修正が何度か必要になった。激突の数秒前、特異点ジェネレーターが自動的に作動し、魚雷の質量が死をもたらすエネルギーの玉となり、岩塊の亀裂に突っ込んでいった。黒い岩でできた月の大きさの塊が内破し、完全に破壊されて渦巻き状になっていく。その間に、二隻の超宇宙船は進路を転換し、避難民船団に合流していく。主要中継基地の最期だ。
 だが、これでドラマは終わったわけではない。ケンティンがインターフェース・コーンの中で自分の体の線に合ったリクライニング・チェアーから立ち上がって身体を伸ばそうとして、部屋が奇妙な光で輝き始めるのに気がついた。輝きが安定すると、柔らかな黄金色の光をした人間の大きさの卵状のものが部屋の向こう側の壁に現われた。ケンティンにはすぐ分かった。ガーディアン評議会の使者が来ているのだ。使者である光の存在は直接テレパシーで話しかけてきた。ケンティンの心が便宜上、次の様に言語化する。
 「やあ、ケンティン。おめでとう。素晴らしい仕事ぶりだ。だが、まだ終わってはいない。遠隔操作をしているもの、つまり、『銀河系XXゼロ』の向こう側の『ベルゼーダーのベルゼード』は、避難民艦隊をどうあっても破壊しようと、まだいろいろと奇襲作戦を計画している。彼は、スカンゼンリーグ諸世界の避難民艦隊をどうしても全滅させなければ、一人も反対するものがいない状態で、その銀河系全体を征服し統治できないのだ。確かに、ベルゼードの精で既にスカンゼンリーグの人々は逃げ出している。彼らの船団は最後に作られた『銀河系間ゲート』からまだ航行時間が一週間も必要なところにいる。被害を受けているのは彼らだけではない。ベルゼードは隣の領域である『フロンドズ諸世界』やそのほか多数の星系に対しても、既に戦争を行っている。ベルゼードは自ら遠隔操作している『カオス』の装置を使って、頑強に抵抗する反対派の領域で星をノヴァ(新星)にしてしまうことすらやるかもしれない。彼はそうやってスカンゼンリーグ諸世界を数世紀前に追い出したのだ。ベルゼードはベルゼード王朝の正当な後継者には違いないが、実際には、あの悪魔王子サマエルの息子だ。
 「ガーディアン評議会は、こういう状況では自分達が干渉するのも全く正当なことだ、という結論を出した。そこで、慎重な対応策をとってこの不均衡を是正することに決めたのだ。その対応策は、ひそかにベルゼードを完全に瓦解させるはずだ。ベルゼードをどうしても阻止する必要がある。出来れば数日内にだが、どうしても一週間でやらなければならない。そこでだ、ケンティン、君をその任務に当てる。私達の方は既にフロンドズ諸世界と接触をした。彼らの宇宙艦隊を待機させ、君から合図があり次第、協力する様に手筈をしてある。宇宙船『スペクター』がベルゼーダー系の厳しい防備を密かに潜り抜けて、支配惑星の近くまで君を送り届ける。そこで、君は一人で支配惑星に下りていく。任務が完了し、君が合図をしたら、『スペクター』が君を救出してその最後の航海で君を連盟に帰還させる。さて、マイカとアーガスに指示を出しなさい。スカンゼンリーグ船団を『銀河系間ゲート』へ、そしてアーガスの誘導で次から次へとジャンプを繰り返して『銀河系XX33』までずっと護衛する様にと。マイカには、偵察としんがりの両方を務めさせ、皆が通過した後で、各臨時『銀河系間ゲート』を爆破させるとよい」
 「それでは、ケンティン、幸運と健闘を祈る!」
 明るい卵状のものが徐々に消えていき、使者が去って行く。
 ケンティンは指示通りにことを進めた。マイカに計画を十分に説明し、それをアーガスに伝える様に頼んだ。アーガスは避難民船団の代表団を迎えて忙しい最中だった。

 *

 ケンティンがベルゼーダー系に向かってから一日後、船団はまた攻撃された。『メガマックス』のウルトラ・スクリーンが接近してくる先頭編隊のブリップを映し出す。マイカは簡単に探知されてしまう標準型送信をまだ使う気になれず、アーガスに警告を発するのにサイコトロニック・リンクを用いた。だが、警告が届かない。攻撃側に気づかれたに違いない。可能な周波数帯はどれも、サイコトロニック周波数帯と一緒に、妨害されてしまっている。マイカは素早く方法を変えた。目を閉じ精神を集中して、純粋なテレパシーで警告を何度も何度も送る。突然、アーガスの笑みを浮かべた顔がマイカの心に飛び込んできた。それと一緒に、「メッセージ受信した。ありがとう」という言葉もだ。
 攻撃側は超宇宙空間から、船団の防衛陣形のど真ん中に忽然と飛び出してきて、あっという間もなく攻撃を仕掛けてきた。だが、もはや奇襲にはならなかった。『スターフィッシュ』の列をなす各個目標設定可能フェイザーが一基残らず、それに船団要塞艦のレーザー砲の砲列も、精確な座標に焦点を合わせて待っていたのだ。そのため、攻撃側の数百の艦艇は、防御側の繰り出す破壊的な十字砲火の激しいエネルギーの中心に飲み込まれることになった。船団要塞艦の兵器制御盤は前もって行われた合意に従って、既にひとつ残らず『スターフィッシュ』のスーパーコンピュータ様頭脳システムと連結されており、広く散開して攻撃してくる相手に対しても、このような精確な複数目標設定の連繋ができる様になっていた。更に、陣形を密にしているため相互連絡に対する『妨害も効果がない』。『メガマックス』もその侮り難い火器で応戦する。だが、その主たる役割は、極長距離ウルトラ・スキャンを使っての事前探知であることには変わりはない。
 波のように押し寄せる攻撃艦艇が一掃された直後、船団司令部は『銀河系XX33』への移住について連盟が提案した計画に同意すると宣言した。ただし、残りの船団も同意することが条件だ。そこで『メガマックス』は代表のトップ六人を乗船させ、後続の九船団に連れていき協議させることにした。マイカは先頭船団に、『亜宇宙』無線を使わない方が良い、後続船団に最後の奇襲攻撃について一般的な説明をするのは仕方がないが、その場合でも、連盟の超宇宙船が介入したことについては触れないように、と提案した。マイカは『スターフィッシュ』に対しては、短距離ウルトラ・スキャンに人員を配置して常に油断をしないように、と告げる一方で、『メガマックス』には、長距離ウルトラ・スキャンを広範囲索敵モードにしておき、必要な場合には『スターフィッシュ』に事前警告を出すように、と命令した。
 こうしておいてから、『メガマックス』は後続船団の方に戻って行った。後続船団間の距離は、船団の航行時間で一日分ある。『メガマックス』にとって、この距離は百倍のスピードで走破できるから、二時間少しで最後尾の第十船団に到達できる。マイカは乗船している代表達が館内を歩き回りいろいろなものを調べるのを自由にさせておいた。物に触れても害は全くない。何から何まで目動で、コンピュータに任されているし、マスター・コンピュータ『マックス』はマイカの音声命令にしか反応しないように調節されているからだ。第十船団に近づくと、マイカは『マックス』に指示を出して、先頭船団の代表団の副司令官に低出カでタイト・ビームの『亜宇宙』無線を使って、接近警告を出し、出現する座標を連絡させた。
 そして、『メガマックス』が超宇宙から出現する。スピードを第十船団に合わせ、マイカは六人の代表団を自艦に短時間訪間させ協議をする。更に、マイカは、連盟諸世界に関して一般的なことを説明した数時間の録音を、船団のデータバンクに高速送信する手配もする。六人の代表団がシャトルで船団に戻る段になると、マイカは代表団の副司令官に避難民合同委員会の委員として『メガマックス』に留まり、先頭船団に一緒に行って欲しいと要請する。『メガマックス』は第十船団を離れ、スピードをあげて前進し、第九船団、第八船団、第七船団という様に、各船団と接触し、自艦を訪問させ、副司令官に合同委員会委員として残ってもらう、という手続きを繰り返す。そして、やっと『メガマックス』が先頭船団に戻る。およそ丸一日が経過していた。その間、『メガマックス』の長距離ウルトラ・スキャンは避難民船団艦隊の前方にも後方にも気になる異常事態は探知していない。先頭船団と合流すると、各船団の代表となった副司令官達は短時間『スターフィッシュ』を訪問し、その後、先頭船団の指揮艦に乗り移り、自分達の置かれた状況を協議し、避難民の運命を決めることになった。
 一日半もかからずに、結論が公布された。スカンゼンリーグ諸世界の指揮集団は、『銀河系XX33』への移住を援助するという連盟の申し出を受け入れることにした。

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 ケンティンは、避難民船団から出発するとすぐに、インターフェース・コーンの中のリクラインニング・チェアーに戻り、自艦を新しい目的地に急行させる。その間に、インターフェースを使ってマインドにベルゼーダー語の標準量を吸収させた。
 ベルゼーダー系に到着すると、ケンティンは手首式コントロールのワープ装置を持ち、自艦を離れ、統治惑星の表面にテレポートする。惑星に降り立つと、密かにその首都に落ち着き、使命を果たす方法を探る。間もなく分かったのだが、ベルゼーダーは銀河系全体にとってだけでなく、ベルゼーダー人民にとっても死をもたらす脅威であった。その独裁的なやり方や偏執狂的な警察国家が元凶なのだ。少しでも反体制派の疑いがあったり、反体制派だという非難があれば、その証拠がなくても、国家はその抑圧的な力でもって締め付けてくる。政治囚として捕らえられることは日常茶飯事であり、処刑も頻繁に行われた。一方、戦争機構と化した軍部は膨大な資源と人材を消費し、常に新たな領土を征服しようと躍起になっている。帝国の統治機関ですら厳しい監視と迫害から逃れられない。高官の間でさえ、追放や処刑が良く行われ、しかもそれを率先しているのが、共同謀議の度合いを一層強めていく閣僚達であったり、偏執狂の皇帝その人だったりすることが多い。だがそれでも、本当の反逆やレジスタンスは無きに等しく、あったとしても目立たない様に深く地下に潜行している。
 一旦現地の状況に慣れてしまうと、ケンティンは、悪の専制国家を完全に瓦解させる対抗策をとり始めた。瓦解させるには帝国が自ら用いている方法を使うのが一番良い様に思えた。そこで、ケンティンは罠を仕掛けて、彼らが伸間割れを起こし帝国が自滅する様にしむけた。人間の苦悩が若干生じるのは避けられないことは分かっていた。だが、その犠牲はこの体制が続いて行く場合よりもずっと少なくて済むだろう。
 ケンティンは作戦を開始するにあたって、まず、これから起ころうとしているセンセーショナルな出来事を利用することにした。ロルトという重要な反逆指導者の処刑予定を国家に統制されたマスコミが発表したのだ。ケンティンは中央データシステムに首尾よく忍び込み、反逆者を収容している刑務所の完壁な見取り図と保安体制に関する情報を、電子的手段を使って盗み、それを武器として、真夜中に、刑務所のお目当ての区画にテレポートで入り込んだ。まず、囚人を脱出させるのに使う一見すると普通の方法をとる。ドア閉鎖器に機能停止装置を取り付け、時限爆弾をあちこちの壁の区画に設置し、次に、時限爆弾が爆発した後で、反逆者ロルトの独房のドア閉鎖器を解除する。助けに来たぞ、とロルトに叫んでから、彼を引っ張り出し、密かにフェイザーを軽く発射して気絶させる。そして、仕上げとして、意識を失ったロルトを肩に担ぎ、刑務所からテレポートで脱出し、町なかの住家へと戻る。
 三十分後にロルトの意識が戻ると、ケンティンは救出者の役を演じ続け、自分は国家保安部所属の高い地位にあるベルゼーダーのエンジニアリングの専門家だが、完全に幻滅感を感じて反逆側に与する者だ、という振りをする。そして、ケンティンは、専制体制の陰謀の罪を明らかにする極秘データをすべて彼に渡す。そのデータは、先に保安部中央データシステムに首尾よく忍び込んだときに、そこのファイルから失敬したもので、それを国民に公開する様にロルトに要請する。ロルトは、その要請を実行すると厳粛に約束し、ケンティンのテレビ電話を使って秘密連絡を取り、自分が反逆の同志達と合流する手筈を整え、別の者に陰謀の罪を明らかにするデータを預ける手配もした。極秘のうちにことを進めなければならないのは当然の予防策だ、とロルトは弁解がましく言い、ケンティンと連絡を取りあうことを約東する。こうした秘密主義をケンティンは全く気にしない。運命のボールは既に正しい方向に転がり始めている。ケンティンがベルゼーダーに来て三日目が過ぎようとしている。
 翌日、町中の壁という壁に落書きが出現した。『ロルトが脱出した。専制体制は滅びる運命にある』と書いてある。その後、国家統制のマスコミがテロ活動やら脱獄未遂があったことを報道した。それに続き、地下組織のチラシや小冊子が洪水のように町に溢れた。専制体制の抑圧的・殺戮的なやり方を断罪する極秘データが公表されたのだ。更に、『上層部の腐敗と裏切り。誰が得をするのか?』という落書きも、あちこちの壁に新たに現れた。こうしたことで、政府関係者は動揺・混乱し、国民は神経質な噂工場の様を呈した。どこに行っても警官が目立つ。重装備をして、暴動が起きそうになったらいつでも抑える用意ができている。しかも今夜は帝国の全体会議が開催される前夜だ。皇帝が油断なく見守る中、閣僚やすべての政府組織が参加する会議が明日開かれるのだ。
 その晩、ケンティンは計画の次の段階を実行するのに非常に忙しかった。前もって、皇帝と主要な閣僚の私的なファイリング・システムにも忍び込み、うま味のある脅迫材料を集めておいた。閣僚達が習慣的に至る所でパイ行為を行い、お互いの弱みを掴んでいたので、ケンティンはそうした脅迫材料から何点か選び出し、慎重にメモを書き、主要閣僚と皇帝に送りつけ、同僚の閣僚達がそれぞれ別々に脅迫をしているように見せかけた。
 次に、ケンティンは慎重に準備した次の手を実行に移した。秘密兵器の隠し場所にテレポートで移動する。以前に、数百基の神経錯乱ジェネレーターを輸送する大規模な貨物をハイジャックして、隠しておいたのだ。元々は、専制体制が隣接する諸世界系を隷属させる戦争に使う予定のものであった。ジェネレーターは低度設定の場合、マイナスの振動ビームを発射し、怒り・混乱・憎悪と暴力を引き起こす。だが、最強度にすると、脳波を混乱させ、(人間であれロボットであれ)神経系を無能力化ないし麻庫させ、長時間浴びせると殺傷力を持つ。ケンティンは、そのジェネレーターを一基づつ慎重に配備し照準を合わせ、タイマーを使い作動時間をずらして、『低度設定』の放射が全惑星に一日半継続するようにした。タイマーには自分で作ったワープ装置を付け、ジェネレーターが作動するまで人目につかないようにした。つまり、現地の時空連続体から少しワープ・アウトさせた。ジェネレーターがいったん作動すると、保安部隊が設置場所を探り出し無力化してしまうまで精々十分位しかないだろう、とケンティンには分かっていた。だが、無力化させられても捕獲はさせない。ケンティンは近接自爆装置をジェネレーターに装備した。
 五日目の夜明け近く、ケンティンは首都の居住区域のシールド内にテレポートする。そこは要塞みたいな区域で、政府の高官全員と、閣僚、さらには皇帝が居を構えているところだ。その居住区域内で、ケンティンは、先に隠しておいた時限装置付きの、目標をいくつか選んで照準を合わせておいた一連の錯乱ジェネレーターを、遠隔操作で始動させる。そして、あたかも一部の閣僚が互いに攻撃し始めたかのように、更に一部の閣僚がまとまって偏執狂の皇帝を狙っているかのようにも見せかけた。この『集団攻撃』を行うのに、ケンティンは皇帝の宮殿のような居住区を防御している複シールドを機能停止させなければならず、それは注意を要する仕事だった。多数の警報装置やブービートラップを避けて通り、侵入者を殺すために設置されてある多層のニューロトロニックの網の目のようになったフィールドを掻い潜っていかなければならない。キラー・ビームも予想のつかないようにでたらめに設置してある。そこで、危険を伴うテレポートをしないで、一歩一歩『ワープ・インとワープ・アウト』を危険な場所で繰り返しながら進むことにした。そして、込み入ったフォース・フィールドを通り抜け、中央集中制御区域に辿り着いた。ある部屋で、遠隔操作者が一時的に席を外しているコンソールを見つけた。その周囲には計器の列が二組とそれに対応する状況ディスプレィ装置が並んでいる。その一組は、避難民船団を攻撃した例の星群に配備された異星の戦艦に関するもので、別の一組は新星を作る『カオス』装置に関連していた。鍵を探し出すと、ケンティンは、一連の攻撃ロボット艦と『カオス』装置ネットワークに『自爆』命含を送信する。遠隔操作式フィードバック装置によって、悪の手段が両方とも完全に破壊されたことが確認された。次に、一束の爆発物をコンソールや計器群の至る所にある遠隔操作式引き金に取りつける。そうしてから、シールドのコントロール・ステーションを探し出し、計器棚がついている壁の裏側に、シールドの機能を停止させるため一連の爆発装置を取りつけた。それにはワープ装置と遠隔操作式引き金をつけてある。そうしておいてから、町なかの住家にテレポートして戻り、引き金を引き、皇帝のシールドを吹き飛ばした。
 政府高官の居住区内に設置したビーム・ジェネレーターは一つ残らず徐々に無力化されてしまい、皇帝のシールドも朝までには修復されてしまったものの、高官達は既に煮えたぎる程に怒り狂い、神経は擦り切れんばかりになっている。全体会議の開催は混乱した。首都の中も惑星のあちこちでも、不穏な動きが大分あり、暴動も起き始めている。保安部隊はデモ隊との衝突で手が離せず、反逆者達は扇動をし続ける。軍部は、惑星を照射している精神錯乱ジェネレーターを一つづつ見つけ出しては破壊しようとしている。
 不安定化が弾みをつけていく中で、皇帝は政府の要職にある『共謀者』数名を逮捕したと発表した。他の多くの高官は、既にそれぞれの私的保安部隊を使ってお互いに交戦中とのことだ。クーデターの亡霊、そして全惑星を巻き込む内乱の亡霊もが、その頭をもたげている。ケンティンは、混乱したニュース報道を通して全体的な状況をうすうす知っていたが、反逆運動側の好意で地下運動の戦況報告を数枚、テレビ電話のレコーダーで読み、本当に包括的な状況を把握していた。ケンティンは、帝国に対する最後の打撃を与える時が来たと思った。以前に設置しておいたコムリンクを使い、事前に取り決めてあった合図を遠隔操作でフロンドズ宇宙艦隊に送信した。それで、待機していた何百という宇宙駆逐艦級のロボット艦艇が帝国側の各種防衛施設や発電所に攻撃を開始し、異星の艦隊が侵略してきて包囲されてしまったという精神状態を生み出した。ベルゼーダー軍部はすべての戦闘部隊を呼び戻して新たな脅威に対処させ、その一方で隠密裏にクーデターを実行し、あの憎い専制君主べルゼード皇帝を粉砕銃で始末することにした。今やフロンドズは膨大な数の艦隊を送り込み、ベルゼーダーに降伏せよと追り、休戦協定を締結しようとしている。だが、その頃には、五日目の終わりに使命を完遂したケンティンは、ベルゼーダーからも『銀河系XXゼロ』からも既に消えていた……

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