世界的バブル崩壊の予感
日本の株価が3万9千円(日経平均)の最高値をつけたのは1989年12月末でした。バブルの象徴ともいえる株と伴に土地の値段もうなぎ上りでしたが、土地の方は株の崩壊から2年後の1992年から下落を開始しました。バブル崩壊の過程で、土地の下落は株の下落から2年ほどの時間差(タイムラグ)がありました。
そんな株や土地の狂騒的な熱狂は、当時の私には無縁でした。
バブル崩壊を予測していたとなれば相当な先見の明の持ち主と言えたでしょうが、なんのことはない、単に貧乏で、投資(投機)しようにも参加するタネ銭がなかったのです。
もし当時、私に小銭があれば、株にでも手を出して火傷を負っていたかもしれません。
バブルには参加しませんでしたが、経済の動向はウォッチしていました。
経済ジャ−ナリストの浅井隆氏が主催する経済・金融の勉強会の会員となり、当時の最新の経済情勢を把握するように努めていました。
それだけに、1992年から始まった土地の下落は、新鮮な驚きでもありました。
戦後、土地の価格は景気の波はあるものの、一貫して上昇するものという、いわいる「土地神話」が多くの日本人の共通認識だったからです。
当時、土地価格の急速な下落に驚いた私は、税理士の資格を取る為に勉強していた兄に、このことを告げました。すると兄は、「土地の値段が下がるなんて、あり得ない!」と全否定したのです。
税理士というのは、お金のプロのはずですが、やはり土地神話にどっぷり浸かっていたということでしょうか。
あるいは、普段から胡散(うさん)臭いことばっかり言っている私の信用が無かったのかもしれません。全く相手にされなかったことをよく憶えています。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」といいます。
ビスマルクが語ったというこの言葉は、本来は歴史に学ぶのではなく、他人の失敗に学べという意味らしいです。しかし、あえて歴史に学ぶという観点で見ても、いいところを捉えている気がします。
社会に出て様々な経験を積んでいる数十年の間、もし土地の価格が(けっして下がることなく)、延々と上がっている状況を見続けたら、土地神話にどっぷり嵌ってしまうのは無理もないのかもしれません。
以下は、世界的な投資家として知られているジム・ロジャース氏の言葉です。
「天井しらずで上がり続けるものなど存在しません」
これは歴史を勉強すれば、誰でもわかる事実です。
でも、人間はそんなに賢くないのかもしれません。
今回は、『恐慌と国家破産を大チャンスに変える!』(浅井隆著、第二海援隊)から、世界的な土地バブルの舞台となっている中国とオセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)の動向をお知らせしたいと思います。
まず、その規模において日本のバブルの規模を遥かに凌駕するものとなった中国の動向です。
・・・<『恐慌と国家破産を大チャンスに変える!』(浅井隆著、第二海援隊)、p122〜p131から抜粋開始>・・・
どうにも乗り越えられない障害にぶつかった時は、頑固さほど役に立たないものはない。 (ボーヴォワール)
ある中国人男性の悲哀
「株をやろうと思っているんだ」−−私はこの言葉をある男性が発していたと聞かされた時、思わず絶句した。この言葉に中国経済の末期症状を嗅ぎ取ったのである。
それは2018年11月、私の会社のスタッフが取材のために四川省成都市を訪ねたときのことだ。中国人の陳さん(仮名)という男性は現在40歳で、日本人を専門とした観光ガイドで生計を立てている。陳さんに留学など訪日の経験はないが、大学時代に学んだカタコトの日本語を駆使して奮闘してきたようだ。誠実で、なかなか骨のある男だと私は聞いている。
私のスタッフ(以下スタッフK)が彼と出会ったのは2017年8月。楽山大仏のツアーに参加して以来、仲良くしているという。とりわけ、陳さんが日本でプログを開設する費用を立て替えてからというもの、彼は頻繁にスタッフKへ連絡を寄こすようになった。そう、中国人はこうした恩義に厚い。
陳さんは大きな悩みを抱えていた。一つは、中国共産党から自宅の立ち退きを強いられているということ。もう一つは、結婚したい相手がいるのに相手の両親が一向に許可を与えてくれないということだ。
まずは前者だが、陳さんは成都市の中心部から車で40〜50分くらいの郊外に両親と3人で暮らしている。しかし、2018年に入ると周辺地域の再開発を理由に地元政府から立ち退きを強いられるようになった。陳さんにとってまさに青天の霹靂だったという。政府が提示した立ち退き料が意に沿わなかったため、陳さんは仕事が終わるごとに政府へ陳情に行ったそうだ。しかし、地元政府は立ち退き料を上げてくれるどころか、次第に「立ち退かなければ仕事ができなくなる」と脅されるようになったという。しかもその対象が本人だけでなく、教師の職に就いている姉にまでおよぶと言われたそうだ。
結局、陳さんは130万元(約2000万円)という立ち退き料を渋々ながら受け入れる、と決断。中国の物価が日本のそれよりも低いことを勘案すると、130万元という額はそこまで少ないとは思えなくもない。しかし、一家で分けるため、陳さんに言わせると「少ない!」。130万元のうち、姉に25万元、妹に30万元を分け、残りの75万元を両親と陳さんの引っ越し代に充てようとした。しかし、昨今の住宅高騰の波により、なかなか良い物件を探すことができなかったという。
私も成都の不動産屋を何軒か覗いたが、確かにそれほど安くはない。陳さんが希望している成都の郊外に位置する成都動物園の近くだと、マンションの価格は1平米当たり3万元。60平米以上になるとほとんどが優に100万元を上回る(ちなみに中国人は広々としたマンションを好み、60平米では狭く、できれば90平米以上に住みたいという人がほとんどだ)。また中国ではマンションを購入した場合、内装も自分で施工しないといけないため、購入する際の費用はさらに膨らむ。住宅価格の額面に10〜20%増しが当たり前だ。
陳さんは賃貸に住むことにしたが、そこで次なる問題が浮上する。そう、結婚ができないというのだ。昨今の中国では、基本的に自宅と車を所有していない男性は結婚できない。女性の両親が、そうした男性との結婚を許さないのだ。
実は、陳さんの置かれた状況は現在の中国ではごくありふれたものだ。昨今、陳さんのように結婚したくても経済的に結婚できない男性が中国全土で激増し、社会問題化している。単純に女性より男性の数が多いという面もあるが、他のアジア諸国でも見受けられるように、住宅が高過ぎて買えないのだ。
データも中国の不動産バブルが世界で最悪の水準に位置していることを示している。住宅バブルを計る尺度の一つに住宅価格の年収倍率があるが、一般的に適正値とされているのが3〜6倍。中国の大手調査会社・上海万得信息技術によると、中国の主要16都市の場合は2017年の時点ですべて10倍以上となっている。すなわち、サラリーマンが飲まず食わずの生活を送っても住宅を取得するのに10年以上かかるというわけだ。ちなみに、住宅価格の高騰が著しい一線都市である深センは、32.44倍、上海は26.08倍、北京は25.48倍だ。成都などの二線都市も総じて10倍を上回っている。
世界の他の都市はどうか。投資家がベンチマークとして活用している米調査会社デモグラフィアの年次報告「インターナショナル・ハウジング・アフォーダビリティ・サーベイ」(2018年版)では世界9カ国293の都市を対象に税引き前世帯収入の中央値と住宅価格の中央値を比較、その年収倍率で「世界で最も住宅購入が難しい都市」を算出している。前述の中国の統計と比較した場合、平均値と中央値という差はあるが、中国ではほぼすべての都市部の住宅価格が高止まりしていることがおわかりいただけるだろう。デモグラフィアの報告書も、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドに加え、中国の主要26都市では「住宅を購入するのが非常に難しい」と評している。
ある時、陳さんはスタッフKにある本を見せてきた。それは株価のテクニカル分析に関する本であり、「浅井さんたちは金融関係の仕事をしているから詳しいでしょう?」と唐突に聞いてきたという。彼は今の今まで投資の話など一切しなかっただけに、スタッフKは面食らったという。事情を聞くと、ガイドだけではいつまで経っても家が買えないため、株で補償金を何倍にもして家を買うのだという。
私はスタッフKから陳さんのこの発言を聞いて、中国経済に対して大いなる不安を覚えた。著名投資家のジョージ・ソロス氏は、かつて「ありとあらゆる矛盾は、一度極限まで行く」と語ったが、本来は社会主義国(平等)であるはずの中国において資本主義の歪みが最大化していることは、今世紀最大の皮肉だと言えよう。格差の拡大が止まらないのは何も中国に限ったことではないが、やはり中国のそれは他国を凌いでいるように感じる。住宅バブルにより、一般的な職業に従事している者が家を買いたくても買えず、やけっぱちで株に手を出させるような中国経済は、率直に言って持続不可能だ。
社会における所得分配の不平等さを測る指標に、「ジニ係数」というものがある。ゼロから1の間で示され、1に近づくほど格差が大きい。ちなみに0.4を超えると社会的な騒乱が多発するとされている。
中国におけるジニ係数は、公式発表のものでも2003年から一貫して0.4を上回ってきた。直近(2017年)の値は0.467。しかし、公式発表のものは過小評価された数字であり、実際には2016年の時点で0.73だという試算も民間からはなされている。この0.7という数字は、もはやいつ内乱が発生してもおかしくはないというレベルだ。中国経済の歪みは、沸点に達しようとしている。
完全に将来を絶望視していないまでも、半ば諦めに近い感情を抱いていた陳さんに私はこうアドバイスをするよう、スタッフKに伝えた−−「不動産価格はそう遠くない将来に大きく下げますよ。それまで株なんて止めて、コツコツとお金を貯めていなさい」。これに対して、陳さんは「住宅価格が下がることはない(むしろ上がり続ける)と嘯(うそぶ)いた。実際、中国の不動産価格が弱気相場(直近の高値から20%以上の下落)を経験したためしはなく、かつての日本や米国のように不動産神話が蔓延している。
「北京などの都市部には不動産市場に関する伝説がある。過去に80万元(約1288万円)で買ったマンションがその後800万元(約1億2880万円)になったという話や、商売に失敗して200万元(約3221万円)もの資金を失ったものの、かつて100万元(約1610万円)で購入していた不動産に1000万元(約1億6100万円)以上の値が付いたためにビジネス上の損失を埋め合わせることができたという話だ」(サーチナ2017年4月5日付)。この事の類の話は、私も上海の知人から耳にタコができるほど聞かされた。しかし、資産価格が永遠に上がり続けることなどあり得ない。おそらく、中国の不動産バブルは、間もなく弾ける。
・・・<抜粋終了>・・・
次に、オセアニア地区のバブルの状況です。
規模は中国ほどではないにしろ、こちらも相当なレベルに達しているようです。
・・・<『恐慌と国家破産を大チャンスに変える!』(浅井隆著、第二海援隊)、p137〜p149から抜粋開始>・・・
オセアニアの住宅バブルも危険水域
極めて残念な知らせであるが、バブルは中国だけにあらず、オセアニア圏(オーストラリアとニュージーランド)も深刻な住宅バブルの渦中にあると考えられる。デンマークの大手投資銀行サクソバンクは2018年末、翌年の大胆予測の一つとして「オーストラリアの住宅バブルが崩壊して、オーストラリア準備銀行(RBA)が量的緩和を実施する」ことを挙げた。サクソバンクはあくまでも”大胆”と銘打っているが、私に言わせると時期はともかくとしてこのシナリオの実現性は高い。
2019年1月、オーストラリア連邦当局は2018年11月の住宅着工許可件数が前月比9.1%減、前年同月比で33%も減少したと伝えた。当局も住宅市場の軟化を懸念しており、RBA理事会の議事要旨(2018年12月分)にははっきりとこう書かれている−−「家計所得の伸びは依然低水準で、家計債務は高水準となっており、住宅価格が下落したことから、家計消費見通しが引き続き不透明要因となっている」(ロイター2018年12月18日付)。
オーストラリア経済は、中国と同じく1991年から2018年にかけて一度もリセッション(景気後退)を経験していない。これは、先進国としては過去最長の記録だ。オーストラリアは、1990年代のアジア通貨危機、2001年のドットコム・バブル崩壊、2007〜2008年の米サブプライム・バブル(リーマン・ショック)、そして2010年からのユーロ圏債務危機も乗り切っており、経済成長という点で”無敵艦隊”と言える。
経済成長と歩調を合わせるかのごとく、不動産市場も堅調な伸びを示してきた。チャートをご覧いただきたい(管理人注:表は略)。オーストラリアの平均的な住宅価格は1987年を起点として、およそ7倍にまで上昇している。不動産ブームの直接的なきっかけは、1999年にキャピタルゲイン課税が半分にまで引き下げられたことだ。この優遇策により、同国の不動産価格はほぼ一直線の上昇を演じることになる。その結果、2017年にシドニーの住宅価格は、ロンドンとニューヨークを抜いて世界2位に上り詰めた(1位=香港、3位=バンクーバー、4位=オークランド、5位=サンノゼ、6位=メルボルン)。
当然、その見返りとして莫大な債務も積み上がった。国際決済銀行(BIS)によると2018年3月末時点におけるオーストラリアの家計債務は対GDP比で122.2%。これはスイス(同128.3%)に次いで世界2位だ。ちなみにオーストラリアの次点に位置するデンマーク(同117.3%、)以下順にオランダ(同104.3%)、ノルウェー(同101.6%)、カナダ(同99.4%)、韓国(同95.2%)、ニュージーランド(同92.2%)などの国々では、例外なく不動産ブームが起きている。
IMF(国際通貨基金)が「危機の兆候」だとする家計債務の水準は、対GDP比65%以上だ。前述した国々は、この警戒ラインを軽く突破しているばかりか、スイス、オーストラリア、デンマーク、オランダ、ノルウェー、カナダは、サブプライム・バブル時の米国の水準をも上回っている。
オーストラリアがとりわけ厄介だと考えられる最大の理由は、あの悪名高い「IOローン」(インタレスト・オンリー)の借り手が多いためだ。IOローンは、最初の数年間は利息だけを返済し、あらかじめ決まっていた段階になるとP&I方式(元本と利息)の返済に切り替わる住宅ローンであり、米サブプライム・バブル時にも猛威を振るったことで知られる。
IOローンの落とし穴
ところで、なぜIOローンのような特殊なローンが登場するのであろうか。実は、IOローンのニーズは短期転売を狙う人にある。元々ローンの完済は念頭になく、できるだけ安くローンを借り、その資金で不動産価格の上昇による短期転売をもくろむわけだ。一見すると合理的のようであるが、ここに大きな落とし穴がある。それは、この理屈が不動産価格の上昇局面でしか成り立たないということだ。不動産価格が下がると短期転売をすれば損が出るわけで、売るに売れない。そうこうしているうちに数年経つと、今まで少なかったIOローンの返済額が大きく増え、ローンの借り主を圧迫してしまうのである。だから短期転売狙いでIOローンを組んだ場合、不動産価格が下がると目も当てられない悲惨な状況になる。
このようなIOローンが近年オーストラリアでは人気を博し、ピークの2015年春には、新規住宅ローンの実に45%もがIOローンを組んだという。ちょうどその頃、オーストラリアの不動産は上昇の一途で「不動産は上がるもの」というまるで1980年代の日本のような不動産神話が台頭した。不動産が上がるから買い、買ったらまた上がるという構造で、オーストラリアでは家計債務を積み上げていったのである。
オーストラリアでは2018〜2021年の間、IOローンのうち毎年およそ1200億豪ドル分が利息だけ払えばよいという期間を終えるため、住宅バブルは本格的な曲がり角に差し掛かる可能性が高い。ソフトランディングですめば万々歳だが、オーストラリアン・ファイナンシャル・レビューによると、人によっては返済の負担が最大で40%増となる。
しかも、すでにシドニーやメルボルンといった都市では住宅価格が落ち込み始めているのだ。米国とオーストラリアを主な拠点とする不動産情報会社コアロジックによると、シドニーの住宅価格は2018年11月までの1年間で7%の下落を記録。先ほども述べたようにIOローンは住宅価格が上昇することを前提としており、こうした状況が続けば同国の家計セクターは正真正銘の正念場を迎えるはずだ。
ホームレスの増加が示す危機的状況
オーストラリアの著名エコノミストであるAMPキャピタルのシェーン・オリバー氏は2018年10月18日、自身のSNS(ソーシャル・メディア)で住宅市場に対する見通しを下方修正したことを明かし、シドニーとメルボルンの住宅価格の下落率は20%以上に達する可能性もあると警告。住宅市場の急減速の可能性も否定できないと断じた。
住宅市場の軟化は、当然貸し出し元である豪銀にもおよんでいる。オーストラリアのメガ・バンクと一言えばコモンウェルス銀行、ウエストパック銀行、オーストラリア・ニュージーランド銀行、ナショナル・オーストラリア銀行の4行だが、豪金融監督庁によると、この4大銀がオーストラリア経済の融資に占める割合は約8割。そして融資のうち65.5%が住宅ローン、25.3%が企業向け融資となっている。米サブプライム・バブル末期のように今後数年で大量の住宅ローンが焦げ付けば、銀行はかなり危うい状況に陥る。
そもそも豪銀を巡ってはかねてから不正行為が明らかになっており、ここ最近は株式が激しく売られている。オーストラリアの代表的な銀行株指数(S&P/ASK
200 Banks)の先行きは予断を許さない状況だ。豪バブル崩壊、そして量的緩和というシナリオは、決して絵空事ではない。
お隣のニュージーランドも深刻な不動産バブルにある。オセアニア圏を代表するオーストラリアとニュージーランドの不動産事情はよく似ており、両国ともこの20年以上、不動産価格は明確な調整局面がないまま右肩上がりで上昇を続けてきた。
ニュージーランドの不動産研究所「REINZ」が出している「NEWZEALAND
HOUSE PRICE INDICES」を確認すると、1992年から2017年までの25年間で、ニュージーランドの不動産価格は約6倍にもなっている。私は年に複数回ニュージーランドに行くが、現在の住宅事情は30年前のあの日本の不動産バブル時よりもひどいかもしれない。
そんなニュージーランドでは、ホームレスが急増して社会問題となっている。不動産価格があまりに高過ぎて持ち家を購入することなどとてもできず、そればかりか家賃の高騰により、住居を失う人が急増したのだ。
その数、なんと数万人規模である。日本のホームレスの数は6000人規模(厚生労働省調べ)で、隠れホームレスを合わせるとその2、3倍ほどになるともいうが、仮に多い方の3倍として数は2万人規模だ。「なんだニュージーランドも日本も同じぐらいの数だ」と思うことなかれ。人口がまったく異なるのだ。日本の人口が1億2680万人であるのに対して、ニュージーランドの人口は480万人と約30分の1だ。
実は、ニュージーランドの人口の1%がホームレスで、この水準はOECD(経済協力開発機構)の加盟国35カ国の中でもっとも悪い、最下位なのである。日本の人口で考えてみた時、人口の1%というと126万人がホームレスとなるわけで、これがいかに異常な状態かがわかるだろう。
かの著名コメディアンのチャーリー・チャップリンは、狂騒の20年代の末期にニューヨークの街角で大量のホームレスを見たことをきっかけに、保有する株式をすべて売り払った(そして大恐慌の損失から逃れられた)。現在のニュージーランドも、この時のニューヨークと似たような状態にあるのかもしれない。
火種は全世界で燻っている
さて、本章では中国とオセアニア圏の信用バブルについて述べてきた。当然、バブルが崩壊した際の影響は、”中国発”の方が大きい。というより中国経済が失速すれば、大恐慌の再来はほぼ確定する。
米ブルームバーグが購買力平価調整後のIMF(国際通貨基金)のデータを用いて算出した、2018〜2019年における中国経済が世界の成長に占める寄与率は27.2%。これに12.9%のインド、そして12.3%の米国が続く。名目GDPは依然として米国の方が圧倒的に上だが、中国の世界経済への寄与率は無視できないほどに大きい。
米へイマン・キャピタル・マネジメントのカイル・バス氏は、かねてから「中国経済の減速は災難どころか、世界全体に最悪の事態をもたらすかもしれない」(サーチナ2014年6月3日付)と警鐘を鳴らしている。
もちろん、オセアニア圏の信用バブル崩壊も軽視してはならない。著名経済学者のチャールズ・キンドルバーガー氏は、90年前の大恐慌の遠因がオーストラリアとニュージーランドにあったと分析しているが、現在はより世界経済が密接になっている以上、オセアニア経済の急減速にも注意を払うべきだ。
当然、この2カ国以外にも現在の世界には多くの火種が燻(くすぶ)っている。米財務長官とホワイトハウスで国家経済委員長を務めたローレンス・サマーズ氏(現ハーバード大教授)はこのほど、こんな悲観的な見通しを示した−−「2年以内に前例のない停滞が来る可能性がある」(中央日報日本語版2019年1月11日付)。
そろそろ備えるべきだ。世界の債務の水準を考慮すると、次の危機は私たちの世代がかつて経験したことがないほど巨大なものになるかもしれない。
・・・<抜粋終了>・・・
ここで中国の住宅投資の具体的な数字を示したいと思います。
2月17日付けの吉田繁治さんのメルマガ(990号)から抜粋して紹介します。
・・・<吉田繁治さんのメルマガ(990号)から抜粋開始>・・・
【不動産への融資額の推計】
住宅関連の融資(企業の建設融資+世帯の住宅ローン)は、1500兆円と推計できます。商業用の不動産への融資を加えると2000兆円でしょう。シャドーバンクは、金利の高い融資が900兆円です。ほとんどが不良化するでしょう。
融資の30%が不良化すると600兆円です。中国の実際の名目GDP 1100兆円(公称は1430兆円:2018年)の約50%にあたります。2回の金融危機を引き起こす量です。
中国の成長を主導してきたのは、GDPの45%の固定資本投資と、10%の輸出です。リーマン危機のあとの不況対策として、GDPの47%という異常な比重を占めるようになっている固定資本投資は、住宅、商業用不動産、公共投資からなります。住宅価格の下落は、建設のための負債を不良化させます。
輸出は、貿易戦争の波及から、減少します。GDPの2部門の急減は、今年、2019年の中国のGDPを、18年の1.67%の成長から急落させ、政府は4から6ポイントの下駄をはかせても、実態ではマイナスにするはずです。
・・・<抜粋終了>・・・
吉田さんが2018年の中国のGDPの成長率を1.67%と言っていることに説明が必要です。
中国政府の公式発表は6.6%なので、その差は相当なものです。これは2018年12月16日、人民大学で開かれた改革開放40年を記念した経済フォーラムで、中国人民大学の向松祚(コウ ショウソ)教授が、「中国経済の真実は成長率1.67%」と発言したことを受けたものです。
この発言は中国政府にとって不都合だったようで、その動画は削除されたそうです(「You
Tube」では視聴可能らしいです)。
吉田さんの推計では、日本のバブル崩壊で不良債権と化した住宅関連の融資の総額は200兆円だそうです。中国で同じようなバブル崩壊が起きると、その規模は3倍の600兆円に達するといいます。当時の日本でさえ、人類史上最大規模のバブル崩壊と言われたのですが、その3倍の規模となるとどうなるのか、想像するのも難しいものがあります。
私は、日本電産の永守重信会長が1月17日に行った記者会見が印象的でした。
永守会長は、日本電産の2019年3月期の決算の業績予想の下方修正を発表しました。米中貿易摩擦の影響で、昨年11、12月に中国国内での需要が急減したとして、
「これまでの経営経験で、見たことのない落ち込みだった」
と語りました。
中国で、これまで経験したことのない事が起こっている(起こりつつある)ということでしょう。
最後に、吉田さんの予測を紹介します。
吉田さんは、春先にかけて、(世界の)株はむしろ上昇するだろうと言っています。そして、中国の住宅バブル崩壊は、今年の秋頃ではないかといいます。これは世界的な株価の下落をもたらすといいます。浅井さんの予測も吉田さんとほとんど同じようです。
中国の住宅バブル崩壊の日本に対する影響は、甚大にものになるのは間違いありません。
私達は、そろそろ心構えをする必要があるのかもしれません。
(2019年2月24日)
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